静 夜 思

挙頭望西峰 傾杯忘憂酒

【書評191】      万葉と沙羅 ~私たちは本でつながれる~    中江 有里 著       文芸春秋    2021年10月

2024-08-11 09:58:38 | 書評
 著者を知ったのは≪ NHKTV総合『ひるまえほっと』”中江有里のブックレビュー” ≫を時折視ていたのに始まる。略歴を検索してみると、歌手でスタートしてから映画・TVドラマ・ラジオドラマ・CM
・公的審議会委員・講演など、実に多彩な活動ぶりなのを知り、驚く。1973年12月生まれなので今年末51歳になる。 これからどう年を重ねてゆくのか、楽しみな人である。
  綺麗な鼻梁と優しい眼元の美貌は今も魅力十分だが、年齢を重ね文筆活動にシフトした。此の小説には著者の精神遍歴を窺がわせるシナリオが見受けられ、略歴を改めて読み直すと腑に落ちた。

* 著者自身が無類の読書好きで知られることから判るように、鬱屈した青春期の乗り越え方の一つとして本の世界を経由する男女を主人公に置いている。二人を取り巻く家庭環境のプロットも巧い。
  著者は50歳を前に、自分の高校時代のたび重なる転校や大学の通信制学部入学体験を舞台に紆余曲折な青春期を振り返った、その半生記と読める。ドロップアウトする青少年が増えているいま、
 「読書を通じた人との繋がり方もあるよ」という一例を小説を通して著者は世に示した。此のようなアプローチが嘗てあったのか? 寡聞にして知らないが、同じ読書好きとして私は親近感を覚えた。
  スポーツや音楽活動などを通じて外と繋がるのとは違い、文字を通じて自分の内面と向き合う営為に始まり、それを共有する繋がり。この差異は対極にある。

* 著者は15歳で歌手になろうと上京し、自分の才覚で道を切り開いた。世の現実は同じような能力を持たない人が大多数であるが、世の親は『落ちこぼれそうな子供にどう接すれば良いか』
  の視点から学ぶことは多いのではないだろうか? そう思って読むと、ヒントは随所に散りばめられている。本書は単純な青春小説ではない。            < 了 >
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