夕方から夜に流れる微妙な時間、
僕は一人、マウンテンバイクを走らせていた。
僕の愛車は紫色のUSAラレー。
もうずっと寄り添うように、何年も、
アスファルトを共にしてきた。
そんな仲だからだろうか?
優雅にも鼻歌で、
曲を思いつきながらのサイクリングになった。
「うん。調子は悪くないな。」
そんなことを思いながら、
僕は週に五日は訪れる、
あの場所へ急いでいた。
ラレーを停めて、
いつも思うことがある。
「今日は彼女はいるのだろうか?」
その一瞬の気持ちは僕を
「僕らしくなく」、
或いはとても忠実に、
「僕らしく」、させている。
入り口を入ると、
彼女たちが僕を迎えてくれた。
そして、
今日も彼女の素晴らしい笑顔に出会えた僕は、
なぜか、いつものことながら、
うまく話せないままだ。
挨拶を交わした後
「今日は受付けの人、多いですね?」
と僕はやっとの思いで言った。
普段は平日だと
2人体制が多いのだけれど、
今日は彼女も併せて、
3人体制で臨んでいた。
「もうすこしで、私消えます。」
彼女が笑顔で答えた。
でも僕はもう何がなんだか分からない状態なので
「えっ?辞められるのですか?」
と勝手に退職勧告・・・
をしてしまう始末。
そして、会場は笑いに包まれる・・・
「いえいえ、もう上がるのです。」
と、やんわり突っ込まれながら
「働き続けてくださいね!」
と、これまた、
ワケの分からない激励をしてしまう・・・
そして、また、みんなが笑う。
「そうさ!俺はいつもみんなを笑わせているじゃぁないか!」
と思おうとしても、
「天然ボケ」
なんてまったく存在しない自分に
「まったく、どうしちゃったんだよ。」
と言いたい気分でいっぱいだった。
そんな中、逃げるように、
しかし、気持ちは嫌々ながら
エレベーターに乗り込んだ。
そして、彼女と目が合う
続いて彼女の笑顔
お辞儀をする僕・・・
「何やってるんだ・・・」
と我ながら思う。
なぜお辞儀なのか?
さっぱり分からない。
僕は彼女の前だと、
自分の30%も力を出せていない
そんな風に感じる。
腐るほどステージに上り、
信じられない数の人に出会ってきた僕なのに・・・
これが「人見知りってものなのかなぁ」
なんて思う。
「でも、なぜだろう?」
こんなことって滅多に無いこと。
多分人生でも初めてかもしれない。
泳いでいる途中
「こんな情けない男の気持ちを、忠実に歌える男って、
この世に3人しかいないなぁ・・・」
この世に3人しかいないなぁ・・・」
と思ったりした。
そう思うと、
詞がピタッ!と、
先ほどのメロディに重なった。
Come on everybody
Come on Mr.Soul
Come on Sister Ray
I'm waitng for you
Do you remember me?
Please Not fade away...
Come on Mr.Soul
Come on Sister Ray
I'm waitng for you
Do you remember me?
Please Not fade away...
そう。
Not fade away
「消えないでおくれ!」
彼女の言葉から生まれた最終バースは
まさに天使からの贈り物かもしれない。
帰り際、受付に鍵を返しに行く。
彼女が言っていたように、
当然、彼女は「綺麗さっぱり」と消えていた。
そして僕はラレーに乗りながら、
完成したばかりの曲を
軽~く口づさみながら帰途に着いた。
もういつもの自分に、
シッカリと戻っていることを
歌いながら、僕は感じていた。
< MASH>
2012年1月12日 筆