永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(60)その1

2018年06月01日 | 枕草子を読んできて
四七  木は  (60) その1  2018.6.1

 木は、かつら。五葉。柳。橘。そばの木、はしたなき心地すれども、花の木どもの散り果てて、おしなべたる緑になりたる中に、時もわかず、濃き紅葉のつやめきて、思ひかけぬ青葉の中よりさし出でたる、めずらし。まゆみさらにも言はず。その物ともなけれど、宿り木といふ名、いとあはれなり。榊、臨時の祭、御神楽のをりなど、いとをかし。世に木どもこそあれ、神の御前の物と言ひはじめけむも、とりわきをかし。
◆◆木は かつら。五葉の松。柳。橘がよい。そばの木、これはどっちとも言えない気がするけれど、花咲く木がなどがみな散り果てて、全体が新緑になった中に、時節にはお構いなく、濃い紅葉がつやつやした感じで、思いもかけない青葉の中から差し出ているのは、目新しい。まゆみは、今さら言うまでもない。まあ取り立てて言うほどでもないが、宿り木と言う名は、しみじみとした感じがする。榊(さかき)は臨時の祭において、御神楽の時など、たいへんおもしろい。世に木はたくさんあれど、特にこの木を神の御前に奉るものと言い始めたそうであることも、格別におもしろ。◆◆

■かつら=『和名抄』は楓をカツラ、ヲカツラ、桂をメカツラ、カツラとよむ。それぞれ現在の木の何に当たるか必ずしもあきらかでないようだ。
■そばの木=錦木、かなめもちの両説あり。
■まゆみ=錦木科落葉樹。秋紅葉する。檀紙の料として、また弓の材となる。
■宿り木=寄生植物の総称。一説に蔦。
■榊(さかき)=賀茂臨時祭(十一月下酉の日)、石清水臨時祭(三月中午の日)に舞人が榊をかざして舞うという。

 

 楠の木は、木立ちおほかる所にも、ことにまじらひ立てらず。おどろおどろしき思ひやりうとましきを。千枝にわかれて、恋する人のためしに言はれたるぞ、たれかは数を知りて言ひはじめけむと思ふにをかし。檜の木、人近からぬ物なれど、「みつばよつばの殿つくり」もをかし。五月に雨の声まねぶらむも、いとをかし。
◆◆楠の木は、木立ちの多い所でも、特に混じって生えていない。仰山に生えている所を想像するといやな気がするけれども、枝が千に分かれて、恋する人の千々に乱れる心の引き合いに歌に詠まれているのは、だれがその数を千と知って言い始めたのかとおもうのもおもしろい。檜の木は、人里に近い所には生えていないものだけれど、「三葉四葉の殿作り」に用いられるのもおもしろい。五月の雨に、その雫で五月雨の音のまねをするとかいうのも、とてもおもしろい。◆◆



かへでの木、ささやかなるにも、萌え出でたる、木末の赤みて、同じ方にさしひろごりたる葉のさま、花もいと物はかなげにて、虫などの枯れたるやうにてをかし。
◆◆かへでの木は、小さな木にも、萌え出ている、木の先が赤らんでいて、同じ方向にさし広がっている葉の様子がおもしろいし、花もたいそうはかなげに、虫などがひからびているようでおもしろい。◆◆



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。