永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(118)

2019年04月24日 | 枕草子を読んできて
一〇五 御方々、君達、上人など、御前に(118) 2019.4.24

 御方々、君達、上人など、御前に人おほく候へば、廂の柱に寄りかかりて、女房と物語してゐたるに、物を投げ給はせたる、あけて見れば、「思ふべしやいなや。第一ならずはいかが」と問はせたまへり。
◆◆中宮様の御身内の方々、若君たち、殿上人たちと大勢が伺候しているので、わたしは廂の間の柱に寄りかかって、女房と話をして座っていると、中宮様が物を投げてお与えくださっているので、開けて見ると、「そなたを可愛がるのがよいか、それともいやか。第一番でなければどうか」とお尋ねになっていらっしゃる。◆◆

■御方々=中宮の身内の方々。兄弟姉妹であろう。



 御前に物語などするついでにも、「すべて人には一に思はれずは、さらに何にかせむ。ただいみじうにくまれ、あしうせられてあらむ。二三にては死ぬともあらじ。一にてをあらむ」など言へば、「一乗の法なり」と人々笑ふ事の筋なンめり。筆、紙給はりたれば、「九品蓮台の中には、下品といふとも」と書きてまゐらせたれば、「むげに思ひくんじにけり。いとわろし。言ひそめつる事は、さてこそあらめ」とのたまはすれば、「人にしたがひてこそ」と申す。「それがわろきぞかし。第一の人に、また一に思はれむとこそ思はめ」と仰せらるるもいとをかし。
◆◆御前で話をするとき、話のついでにも、「万事、人には第一にかわいがられるのでなくては、いっこうどうしようもない。ただひどく憎まれ、悪く扱われているほうがいい。二番三番では、死んでもかわいがられないでいるつもりだ。第一番でどうしてもいよう」などと言うので、「それは一乗の法だ」と女房たちが笑う、あの話の筋であるようだ。筆と紙をいただいたので、「九品蓮台の中では、たとい下品といっても」と書いて差し上げたところが、中宮様が「ひどく意気地がなくなってしまったのだね。たいへん劣った考えだ。一旦言い始めてしまったこことは、そのままでこそ押し通すのがよい」と仰せあそばすので、「相手によりましてこそ」と申し上げる。「それがよくないのだよ。第一番の人に、まだ第一番に思われようとこそ思うのがよい」と仰せになるのも、たいへんおもしろい。◆◆

■をあらむ=文中で使われる「を」は連用の文節に添って強意を表す。結びは願望・命令・決意などの表現となるのが普通である。

■九品蓮台(くほんれんだい)=『観無量寿経』によると極楽往生には九階級があり、上品、中品、下品(げぼん)の三段階がそれぞれ上生・中生・下生に分かれる。ここでは九品往生できるなら下品でも満足だ、すなわち中宮に思われるなら第二、第三でも結構だ、の意を含む。


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