永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1047)

2011年12月27日 | Weblog
2011. 12/27     1047

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(18)

「大輔がもとにも、いと心ぐるしげに言ひやりたりければ、『さるやうこそは侍らめ。人にくくはしたなくも、なのたまはせそ。かかる劣りの者の、人の御なかにまじり給ふも、世の常のことなり。あまりいと情けなくのたまふまじきことなり』」
――中の君の侍女の大輔(たいふ)のところにも、まことに困った様子の文を言い送ってきましたので、「これには何か仔細がございますのでしょう。無愛想にすげなくばかりお扱いなさいますな。浮舟のような、母の卑しい人が御姉妹の中にまじっておられますのも、世間にはよくあることでございます。あまり無情なお返事はなさいませんように」――

 などと申し上げて、あちらへのお返事は、

「さらば、かの西の方に、隠ろへたる所し出でて、いとむつかしげなめれど、さてもすぐい給ひつべくば、しばしのほど」
――それでは二条院の西の対に陰になった所を用意して、ひどく鬱陶しいかとおもいますが、それでもお暮しになれますならば、しばらくの間はそちらへ――

 と、大輔がしたためて、言い送ったのでした。

「いとうれし、と思ほして、人知れず出でたつ。御方もかの御あたりをば、睦びきこえまほし、と思ふ心なれば、なかなか、かかる事どもの出で来たるを、うれしと思ふ」
――(北の方は)うれしく思って、いそいそとしてこっそりと邸を出ました。浮舟も中の君に親しくしていただきたいと思うお気持がありますので、かえってこうした事の成り行きを喜んでおいでになります――
 
 さて、

「守、少々のあつかひを、いかばかりめでたきことをせむ、と思ふに、そのきらきらしかるべきことも知らぬ心には、ただあららかなる東絹どもを、押しまろがして投げ出でつ。食物もところせきまでなむ運び出でて、ののしりける。」
――常陸の介は、少将のもてなしを、どうしたらきらきらしく華麗にしてよいか、見当もつかないので、御祝儀には、ただ布目の粗い東国の絹などを、無造作に巻いたままで投げ出し、御馳走なども置き場のないほど運び出して、大騒ぎするのでした――

「下衆などは、それをいとかしこき情けに思ひければ、君も、いとあらまほしく、心賢く取り寄りにけり、と思ひけり」
――少将の供人たちは、それをまことに有難い心遣いと思って喜ぶので、婿君もすっかり満足して、この縁組は賢い思いつきであったと思ったのでした――

「北の方、この程を見棄てて知らざらむもひがみたらむ、と思ひ念じて、ただするままにまかせて見居たり」
――北の方は、この婚礼の騒ぎをよそにして出て行くのも、あまり依こ地にすぎようと、じっと我慢をして、ただ守のなすがままにまかせて眺めておりました――

◆なのたまはせそ=な・のたまはせ・そ=決して、そのように、おっしゃってはなりませんよ

◆あららかなる東絹=生地の粗い東国産の絹

◆食物(くいもの)=御馳走

では12/29に。