永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1041)

2011年12月15日 | Weblog
2011. 12/15     1041

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(12)

「守の言ひつることを、いともいともよげにめでたし、と思ひて、きこゆれば、君、すこし鄙びてぞある、とは聞き給へど、にくからず、うち笑みて聞き居給へり。大臣にならむぞくらうを取らむなどぞ、あまりおどろおどろしきこと、と、耳とどまりける」
――(仲立の男が少将の許に来て)常陸の守の言ったことを、実に何ともうまい話だと思って申し上げますと、少将は、守が少し田舎じみているとはお聞きになりますが、満更悪い気もしないので、苦笑いをしておいでになります。それにしても、大臣になるための費用までお世話しようというのは、あまりにも大袈裟なことだと、聞き耳を立てたのでした――

 少将は、

「さて、かの北の方にはかくとものしつや。志ことに思ひはじめ給ふらむに、引き違へたらむ、ひがひがしくねぢけたるやうにとりなす人もあらむ。いさや」
――それで、あの北の方には、このことを話して来たのか。特別熱心に準備をすすめていらっしゃったのに、こちらが約束を違えたら、さぞかし筋違いな、意地悪なように言い立てる人もあろう。どうしたものだろう――

 と迷って言いますと、男は、

「何か、北の方もかの姫君をば、いとやむごとなきものに思ひかしづきたてまつり給ふなりけり。ただ中のこのかみにて、年もおとなび給ふを、心ぐるしきことに思ひて、そなたにとおもむけて、申されけるなりけり」
――何の、そんなご心配はいりません。北の方も今度のお話の姫君を大そう大切に育てておいでなのですから。ただ、前の方(浮舟)は、お子たちの中でも一番年上で、大人びていらっしゃるのを気になさって、あなたさまの御縁談を、まずそちらへ振り向けて、と、お返事申されたのです――

 と申し上げるのでした。

「月ごろはまたなく、世の常ならずかしづく、と言ひつるものの、うちつけにかく言ふもいかならむ、と思へども、なほひとわたりはつらしと思はれ、人にはすこしそしらるとも、ながらへてたのもしきことをこそ、と、いと全く賢き君にて、思ひ取りてければ、日をだにとりかへで、契りし暮れにぞおはしはじめける」
――つい今しがたまで、浮舟だけを特別に大切に養育していたと言っていたのに、急に今になってこんな事をいうのもどういうものか、と少将は思いますが、一旦は北の方から薄情者と恨まれ、世間からも少々悪く言われようとも、行く末危なげのない頼もしい事こそが肝心だ、と、この少将はたいそう抜け目のない利口な人なので、そう割り切って、北の方が取り決めた日さえ変えずに、約束の日の暮れに、はじめて守の邸へ通ってきたのでした――

「北の方は人知れずいそぎ立ちて、人々の装束せさせ、しつらひなど由々しうし給ふ」
――そんなこととはつゆ知らぬ北の方は、浮舟の婚礼の支度を急がせて、女房たちの衣裳はもとより、室内の飾り付けなども趣向をこらして準備なさる――

では12/17に。