永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1040)

2011年12月13日 | Weblog
2011. 12/13     1040

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(11)

 仲立ちの男はまだ続けて、

「『御心はた、いみじうかうざくに、重々しくなむおはしますめる。あたら人の御婿を、かう聞き給ふ程に思ほし立ちなむこそよからめ。かの殿には、われもわれも婿にとりたてまつらむ、と、所所に侍るなれば、ここに渋々なる御けはひあらば、外ざまにもおぼしなりなむ。これただ後やすきことをとり申すなり』と、いと多く、よげに言ひ続くるに、いとあさましく鄙びたる守とて、うち笑みつつ聞き居たり」
――「お心ばえも、たいそう優れて思慮深い方です。勿体ないほどの婿君なのですから、こうして私の言葉をお聞きになる内にも、迷わずお決めになるのがよろしいでしょう。少将に対しては、婿にお迎えしたい人が、われもわれもとあちこちにおりますから、こちらでためらっておいでのご様子ならば、少将は他の所の方へとお考えを変えられもしましょう。これはただ、貴方様が御安心なようにと、お取り次ぎを申し上げるのです」と、心にもない仲人口を長々と並べたてるのを、守はあきれるほどの世間知らずなのか、嬉しそうに笑みをこぼして聞いています――

 常陸の守は、

「この頃の御徳などの、心もとなからむことは、なのたまひそ。なにがし命侍らむ程は、頂きにもささげたてまつりてむ。心もとなく、何を飽かぬとかおぼすべき。たとひあへずして、仕うまつりさしつとも、のこりの宝物、領じ侍る所々、ひとつにてもまたとりあらそふべき人なし」
――現在の御財産などが不足であるというようなことは、おっしゃいますな。拙者が命のあります限りは、頭上にも戴き申して敬いましょう。万が一、命が堪え切れなくなって、途中でお世話を止めたとしましても、後に残す宝物や領地は、何一つこの娘の他には争う者のないようにして置きます――

「子ども多く侍れど、これはさま異に思ひそめたる者に侍り。ただ真心におぼし顧みさせ給はば、大臣の位をもとめむとおぼし願ひて、世になき宝物をもつくさむとし給はむに、なき物侍るまじ」
――子供はほかに大勢いますが、この娘は初めから格別大切にしている子でございます。ただ少将が心からこの娘を慈しんでくださるならば、大臣の位を得ようとお思いになって、この世にまたとない宝物の数々を使い尽そうとなさる時でも、私のところに無い物はありますまい――

「当時の帝、しか恵み申し給ふなれば、御後見は心もとなかるまじ。これかの御為にも、なにがしが女の童の為にも、幸ひとあるべきことにや、とも知らず」
――時の帝が、そのようにお引き立てくださいますならば、私の御後見の方も、ご案じなさいますな。この御縁はあのお方の為にも、行く先どれほど仕合せとなる筈の事かと思いますが、どんなものでしょう――

 と、

「よろしげにいふ時に、いとうれしくなりて、妹にもかかることありとも語らず、かなたにも寄りつかで参りぬ」
――良い調子に言いますので、男はうれしくなって、西の御方に仕える妹にも、この事は告げず、北の方の許にも寄らずに急ぎ帰っていきました――

◆かうざくに=警策(きょうざく)のこと=詩文にすぐれていること。人柄が明敏なこと。

では12/15に。