永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(543)

2009年10月27日 | Weblog
 09.10/27   543回

三十六帖【柏木(かしわぎ)の巻】 その(25)

源氏は、

「『あはれ、残りすくなき世に、おひ出づべき人にこそ』とて、抱き取り給へば、いと心やすくうち笑みて、つぶつぶと肥えて白ううつくし」
――「ああ、私のこんな晩年に生まれくる運命を持った子よ」とおっしゃって抱きとられますと、人懐こく、にこっとされて、丸々と太って色白で大変美しい――

 薫は大そう上品な上に愛くるしく、目元が美しくてよく笑顔をなさるので、源氏はまことにあわれ深くご覧になり、

「思ひなしにや、なほいとよう覚えたりかし。唯今ながら、まなこゐののどかに、はづかしきさまもやう離れて、かをりおかしき顔ざまなり」
――気のせいか、やはり良く柏木に似ている。こんなに小さい時から眼差しがしっとり落ち着いていて、奥ゆかしい様子も人並み以上に優れ、匂いやかな顔かたちだ――

 と、お思いになるにつけ、他の人はこの秘密を知らぬことや、柏木の儚かった運命を
考え続けておられますと、涙がほろほろとこぼれるのでした。しかし今日は五十日の祝いの日ですので、涙は禁物と覆いかくして、

「『静かに思ひて歎くに堪へたり』と誦し給ふ。五十八を十とりすてたる御齢なれど、末になりたる心地し給ひて、いとものあはれに思さる。『汝が父に』とも、いさめまほしう思しけむかし」
――「静かに思ひて歎くに堪へたり」(白楽天が五十八歳で一子を得た時の詩)を口ずさんでいらっしゃる。今、源氏は白楽天の五十八歳から十歳を引いた四十八歳ですが、もう晩年の心地で、しみじみとこの世をものあわれにお思いになります。「汝が父に」(白楽天の詩の続きで)と口づさんで、汝の父柏木に似ないようにと、源氏は薫にお諌めになりたいお気持だったでしょうか――

 源氏は、宮の秘密を知っているものが侍女の中に居るに違いなく、さぞかし私を何も知らない馬鹿者だと思っているだろうといらいらしていらっしゃる。

◆まなこゐ=眼居=目つき、まなざし

◆「源氏物語絵巻」復元模写:五十日の祝いに薫を抱く源氏

ではまた。