永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(532)

2009年10月16日 | Weblog
09.10/16   532回

三十六帖【柏木(かしわぎ)の巻】 その(14)

 源氏は、

「憂しと思す方も忘れて、こはいかなるべき事ぞと、悲しく口惜しければ、え堪え給はず、内に入りて、『などか、いくばくも侍るまじき身をふり棄てて、かうは思しなりにける。なほしばし心をしづめ給ひて、御湯まゐり、物などをもきこしめせ。尊き事なりとも、御身弱うては行いもし給ひてむや。かつは繕ひ給ひてこそ』と申されます」
――女三宮に対して不快に思われていましたことも忘れて、これはいったいどうしたものかと、悲しくも口惜しく、内に入って宮のお傍にさし寄られ、「なぜ、余命いくばくもないような私を振り棄てて、そのようなお考えになったのですか。まあ、しばらくお心を鎮めて、お薬湯も召しあがり、お食事をもなさいませ。ご出家がどんなに尊いことでも、お身体が弱くてはお勤めもお出来になりますまい。まず、ご養生をなさった上のことですよ」とおっしゃいます――

「頭ふりて、いとつらう宣ふと思したり。つれなくて、うらめしと思す事もありけるにやと、見奉り給ふに、いとほしうあはれなり」
――(女三宮は)お頭(おつむり)を振って、なんと今更辛いお言葉であろうか、とお思いになりました。(源氏は)女三宮がさりげないように見えていたが、お心の内では自分の意地悪い仕打ちを恨めしいと思っておいでになっていらしたことがお分かりになりましたので、お気の毒にも可哀そうにもご覧になる――

 源氏が、宮のご出家にあれこれと反対なさっているうちに、夜も明け始めました。朱雀院は日中に山寺にお帰りになるのは、人目について具合が悪いという事で、大急ぎで、地位の高い僧を召しいれて、

「御髪おろさせ給ふ」
――お髪(おぐし)を落ろして差し上げます――

「いとさかりに清らなる御髪をそぎ棄てて、忌むこと受け給ふ作法、悲しう口惜しければ、大臣はえ忍びあへ給はず、いみじう泣い給ふ」
――今を盛りの、まことに美しい御髪を削ぎ棄てて、五戒をお受けになる作法がかなしくも口惜しく、源氏は堪え切れずひどくお泣きになりました――

◆写真:髪を少し長めに削いで、尼姿になった女三宮  風俗博物館

ではまた。