落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

おさかなは好きですか

2007年08月04日 | book
『これから食えなくなる魚』 小松正之著
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ぐりの好きな魚は鯖と鰤。秋刀魚や鰯も好き。いわゆる青魚系である。
生まれ育った地元では穴子が名物だったのでいちばん好きな寿司ネタは穴子だが、握りよりも押し寿司の方が好き。
父の友人で漁業権をもっている人がいて、子どものころは毎年のように夏休みに蛸とりに連れていってもらって、とれたての蛸や鯛や蝦蛄をご馳走になっていた思い出もある。
海に囲まれた日本で暮していると、魚料理は食卓の定番、三食いつでも気軽に味わえる身近な食べ物と、ぐりだけでなく誰もが当り前に思っているのではないだろうか。
その日本独特の価値観がごくローカルな限定的な考え方だということにぐりが気づいたのは、初めて海外旅行で訪れたギリシャ・アテネでのことだ。
ギリシャも地中海に突き出た半島で周囲を海に囲まれた国だが、食材としての魚は日本とはくらべものにならないくらい贅沢なものとしてとらえられている。レストランは海産物を饗する店と、肉料理を饗する店にくっきりと分かれている。値段は魚料理レストランの方が高い。メニューもその日に用意できる食材で構成されるので「時価」となっている店が多い(つまりはっきり価格を書いていない)。入るなら肉料理店の方がずっと気楽だった。今でも味を思い出せるのはドルマデスやムサカやスブラキなどの肉料理ばかりで、海のものといえばバールでツマミに食べたカラマリ(イカ)のフリットやスーパーのデリで売られていたショッキングピンクのタラモサラダくらいしか覚えていない。
ぐりがギリシャに行ったのは10年以上前のことなので、今もこんな風なのかどうかはよくわからないけど。

この本には、世界の水産業の現状─資源の減少、法制度の変遷、環境汚染などなど─と日本との関わりが、広く浅くわかりやすく解説されている。
一年中日本中いつでもどこでも同じような値段で同じような魚が流通している市場形態の不自然さ、60年も変化せず現状にまったくあわないまま放置されている漁業政策、政治問題と化した国際的な漁業競争、輸入魚や養殖飼料のダイオキシン汚染、どの話もほとんどマスコミには取りあげられない目から鱗の新事実ばかりで驚かされる。
とくにショッキングなのは、去年発表された論文で唱えられた「2048年に世界の海から魚が消える」という説。これは極端な例かもしれないけど、昔は日常的には日本人しか食べなかった魚が世界中で食べられるようになり、また市場のグローバル化によって地球規模での資源破壊的な大規模漁業が発達していった結果、人の目にはふれない海面の下では「砂漠化」が始まっていたのだ。現在、漁業の対象となる魚類のうち75%が保護を要する状態にまで激減しているという。
それだけではない。日本の漁業従事者は現在たったの22万人、うち約半数が60歳を超えている。このままでは10年もしないうちに国内の水産業は破綻してしまう。
安くておいしい魚をいつでも食べたいという日本人のニーズにあわせて流入した輸入海産物が市場を混乱させただけでなく、それらを養殖する漁場を確保するために環境が破壊され、地球温暖化にまでつながっていたりもする。

この本を読んでいると、海にはボーダーがないということをしみじみ実感させられる。
魚を食べる、ただそれだけのことが、健康や食卓だけに限らず、環境問題や政治問題、経済や歴史などありとあらゆる巨大な課題にダイレクトに繋がっている。
おいしい魚がいくらでも食べられる生活に慣れすぎて、何十年も日本人が放置して来たそれらの課題は、まさに今「待ったナシ」の極限状態に達している。
マスコミでは今年決定したマグロ漁獲量削減の話題ばかりとりあげられているけど、削減すべき魚は他にもたくさんある。逆に、資源の状態が良好でたくさん食べても問題ない種類もある。
大体、トロってそんなにおいしいですか?ぐりはこの先トロなんか一生食べられなくてもまったく気にならない。マグロが食べられなくても生きてはいける。誰だってそうだろう。世の中にひとつくらい食べられないものがあったって構わないではないか。
世界中でもっとも大量に魚を食べているという日本、世界中でいちばんこのことにマジメに向きあうべき国は、やはり日本ではないだろうか。