ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

万才(まんざい)の歴史・番外後編

2009-09-06 | Weblog
「がまの油売り」口上・後編

 [がまの油が]取れますのが五月に八月に十月、これを名付けて五八十(ごはそう)は四六のがまだ、お立会い。がまの油を取るには四面には鏡を立って、下に金網を敷き、この中にがまを追い込む。がまは鏡に写るおのれの姿をみて、おのれと驚き、タラリタラリと油汗を流す。その油汗を下の金網抜き取り、柳の小枝をもって三七、二十一日の間、炊き詰めたのがこのがまの油だ。
 赤いが辰砂野臭(しんしゃやしゅう)の油、テレメンテイカマンテイカ。がまの油の効能はヤケドにヒビ・アカギレ、霜焼けの妙薬。金創(きんそう)には切り傷、出痔、イボ痔、走り痔、脱肛、横根、雁瘡【病】(がんがさ)、梅瘡(ばいそう)、打ち身・クジキ・はれもの一切、下の病い。何日(いつ)もは一貝で百文だが、本日はひろめのため小貝を添えて二貝で百文だ、お立合い。
 がまの油の効能はまだあるかというに、切れものの切れ味をとめて、カミソリの刃をとめる。手前持ち出したるは拵(こしらえ)は粗末といえども、刃引ナマクラではない。多くお立会い、中にはあの膏薬屋の刃は先が切れて元が切れて、中刃が切れぬ仕掛けでもあろうという。切れるか切れないか、お目の前で白紙を細かに切り刻んでごらんに入れる。一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚は十六枚、三十と二枚、六十と四枚。六十四枚が一百(そく)と二十八枚だ、お立会い。
 春は三月落花の舞い、比良の暮雪は雪降りの景(かたち)。かほどに切れる業物でも、差し裏指し表にがまの油を塗る時は、切れ味とまってナマクラ同然。白紙一枚容易に切れない。引いて切れない、たたいて切れない。ご覧の通り。
 多くお立会いの中には、あの商人(あきうど)のツラの皮は厚いという御人(ごにん)もござろう。しからば、ところを変えてここを試す。たたいて切れない。引いて切れない。ご覧の通り。拭きとる時にはどうかというに、がまの油のケがなければ、鉄の一寸板でも真ッ二つ。触ったばかりでこの通りだ。お立会い。
 この位の傷はなんでもない。がまの油を一付けつけて拭きとる時には、即座に痛みが去って血がピタリと止まる。何とお立会い……
<2009年9月6日>
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