ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

アメリカヤマボウシ、別名ハナミズキ

2008-04-27 | Weblog
 桜花は八重のほか、まずほとんどが入寂してしまった。花に入滅はないだろうが、また一年待たねば逢えぬのかと、ついそのような感慨を抱いてしまう。
 しかしあまりの感傷は、桜の精から小言を頂戴するはめにおちいるかもしれぬ。謡曲「西行桜」、西行法師の西山の閑居へ騒がしい花見客がつぎつぎ訪れる。彼はつぶやいた。
 「花見むと 群れつつ人の来るのみぞ あたら桜の咎(とが)には ありける」
 これを聞いた老木の桜の精、白髪の翁があらわれる。そして西行の失礼千万な言の葉に苦言を呈す。
 「桜の咎はなにやらん。…非情無心草木の、花に憂き世の咎にあらじ」
 花はこころなき草木である。憂しとか厭わしきとか思うのはひとのこころ次第。花に罪のありようはずがない。

 ところでこの頃では、ハナミズキ(アメリカヤマボウシ)の花が、大手をふっている。だがあの花は、実は「葉」であるらしい。総苞片(そうほうへん)と呼ぶ。白とピンク、触ってもみたが、わたしなどには花としか感じられない。
 この木はアメリカから九十年ほど前に贈られ、戦後の高度経済成長とともに日本全国を風靡した。1912年に尾崎行雄東京市長が、桜の苗木を首都ワシントンにプレゼントした返礼であった。日米親善大使の役割を二種の花樹が果たしたのかと思うと、その後の大戦があまりにも痛ましい。

 桜満開のころ、高瀬川沿いの居酒屋での思い出がある。フロリダから入洛されたひとと一献交わす機会があった。アメリカの桜事情を聞いてみた。お答えは「フロリダあたりは暖かくて、四季のない地方ですから、日本の桜は咲きません」
 一方のハナミズキは寒暖をいとわぬ強い樹である。桜をしのぐほどの勢いで戦後、日本国中を席巻している。舶来山法師の拡がりは、かつてコカコーラ、その後のマクドナルドやスターバックスなどと同様。いつかは古来からの桜も、隅に追いやられてしまうのであろうか。桜の翁は、何と答えるか。

 府立総合資料館の庭に咲くハナミズキが好きだ。大きく四方に腕を伸ばしたかのように、長すぎるほどの豊かな枝を張り、白とピンク、交互にならぶ。その悠然とした姿は、比叡を借景に見事である。山法師は叡山の僧兵であったか。

※ この原稿を書いている最中に、アメリカにいま行っている家族のひとりから携帯メールが届いた。「ワシントンD.C.に着いた」。あまりの偶然に「ポトマックの桜は?」と聞いてみたら「夜なのでわからないけど、かなり暖かく、雨脚強し」。すでに散ったか。
<2008年4月27日 米国山法師>
コメント