映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

日の名残り

2007年05月20日 | 映画(は行)

イギリス在住のカズオ・イシグロ小説の映画化。
何の予備知識もなかったのですが、たまたまレンタルの棚で見かけて、ヒュー・グラントの名前が目に留まり、見てみました。
これはなかなか、じっくり見せる上質の作品です。

舞台はイギリス。
主人公スティーブンスは名門貴族ダーリントン卿の屋敷の執事。
二次大戦前後のことで、屋敷で、非公式の国際会議が開かれることになります。
貴族の屋敷のことなど、それこそ映画やテレビドラマでしか知りませんが、この映画では、使用人からの視点で描かれているので、その実情が見えて、なかなか興味深いものがあります。
貴族の邸宅というのは、そのままホテルのような機能になるのですね。
そこの執事となると、ホテルの総支配人といった役どころ。
食事やお客の世話、スタッフの手配、備品調達などなど、全てを把握し、仕切らなくてはならない。
スタッフの人数も、相当なもの。

このスティーブンスは、父親も有能な執事であり(ただし、この作中ではもう年老いて、息子を手助けするために副執事を務めるけれども、ミスを重ねてしまう)、執事であることに誇りを持ち、プロ意識に徹している。
自分の感情も意見も押し殺し外に出さない、あくまでも、屋敷の中では影の存在というところ。
会議でどんな話がされようとも、聞いていないフリ。
自分の意見は決して出さない。

同じ屋敷に女中頭のケントンが勤めています。
あまりにも生真面目一辺倒のスティーブンスをあきれながらも次第に心惹かれていくのですが、そもそも、そんな恋心を受け入れてくれそうな人物ではない。
ある日他の男性からプロポーズされ、スティーブンスに相談してみるのですが、職務に徹する彼からは、儀礼的に祝福の言葉が返ってきただけ。
その態度に絶望した彼女は屋敷の仕事をやめ、結婚してしまうのです。

20年後、屋敷はアメリカの富豪ルイスの手に渡りますが、スティーブンスはそのまま執事として残りました。
人手不足のため、また、ケントンを呼び戻そうと、20年ぶりに逢うことになるのですが・・・。
「日の名残り」。
この題名は、お屋敷で大きな会議が開かれたその頃が、もっとも華やかで輝いていた・・・と、後になって回想する事から来ています。
回想するのは黄昏時。
その日の明るい日差しはもう戻っては来ない、懐かしく回想するだけ・・・ということで、この映画のラストは収まるべくして収まった、と思います。
悲しく、思い通りに行かない人生ですが、現実はそんなことの繰り返しなのかもしれないなあ、と、しみじみ思ったりします。

このお屋敷のダーリントン卿は、人格は大変高潔なのですが、いささかお人よしに過ぎ、ナチスドイツに肩入れをして、後に世間の非難を浴び、寂しい晩年を迎えます。
そのような主人の没落にも淡々と寄り添い、支えていく。
執事というのはまた、自分の人生をも主人に預ける、大変な仕事なんですね。

さて、注目のヒュー・グラントは、このダーリントン卿の甥という役どころで、ちょい役ながら、なかなかチャーミングでした。
彼のまだまだ下積み時代ですよね。
それから、アメリカ人富豪役のクリストファー・リーブって、スーパーマンですよね!
ちょっと古い映画を観てみるのも、こんな楽しみがあって良いです!

1993年/アメリカ/134分
監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、クリストファー・リーブ、ピーター・ボーガン、ヒュー・グラント

日の名残り
日の名残り コレクターズ・エディション [DVD]
イスマイル・マーチャント,マイク・ニコルズ,ジョン・カリー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


最新の画像もっと見る

コメントを投稿