映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

マンチェスター・バイ・ザ・シー

2017年05月25日 | 映画(ま行)
乗り越えることだけが正解ではない



* * * * * * * * * *

ボストン郊外に住む便利屋のリー(ケイシー・アフレック)は、
兄ジョー(カイル・チャンドラー)の訃報を受けて故郷の町、
マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ります。
そして、兄の遺言により、兄の息子・パトリック(ルーカス・ヘッジス)の後見人を任されます。

しかし、リーにはこの街で、過去に辛いできごとの記憶があるのです。
それを消し去りたいがためにこの町を離れていた。
だからできればリーはボストンへパトリックを連れて行きたかったのですが、
パトリックは納得しません。
甥のパトリックがまだ幼い頃、リーはずいぶんと彼をかわいがったものでした。
しかし、そのパトリックも今は反抗期の16歳。
アイスホッケーやバンドの仲間たち。
彼女が二人(?!)。
そして父の形見のボート。
これらを皆振り捨てて見知らぬ街へ行くつもりはパトリックにはありません。

「あんたがここへ来ればいい。便利屋ならどこででもできる。」

などと言われてしまう。
実際、パトリックは妙にしっかりしていて、
一人生きるのにやっとのようなリーと比べると
どちらが後見人なのかわからなくなるほど。
だけれども、そのパトリックも時には、不安な心が爆発しそうになることも・・・。



決してしっくり行かない二人が、
それでも互いの心を思い計りながら折り合いをつけていくようになるのですね。
それにしても、後半明らかになるリーの過去のできごとというのが
あまりにも切ないので、確かにここでリーが暮らすのは酷だろうと思えてくるのです。



人は必ずしも苦しいことを乗り越えなくても良いのだ。
逃げることもまた、時には必要なのだ。
大抵のストーリーは、結果的には「乗り越える」ことで決着をつけるわけですが、
そればかりが答えではない、ということなのでしょう。



ここに出てくる海は、決して太陽の光を受けて明るく青く輝いていたりはしません。
いつもどこかどんよりと霞んでいる。
けれどそれこそが本作の生活の中の海。
明らかに観光地の海とは違いますね。
辛い思いに打ちひしがれそうになる男たちの海。



父を失ったパトリックはもちろんですが
兄を失ったリーもまた、孤児になったような悲しみを実は感じていたのだろうと、
次第に思えてきました。
リーにとってはたった一人の肉親で、
あのつらい出来事の後、リーを親身に支えていたのが兄だったわけですから。
同じ喪失感を抱える二人だからこそ、通じ合うものもある・・・。


ボソボソとした話し方をするケイシー・アフレックが、
このリーにピッタリと重なります。
言いようもなく苦しく物悲しい物語ではありながら、
決して重すぎず、ほのかな明かりも見えてくる・・・
余韻の残る上質な作品でした。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
2016年/アメリカ/137分
監督:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジス、カーラ・ヘイワード

悲惨なできごと度★★★★★
満足度★★★★★