映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ

2017年03月02日 | 映画(か行)
語り継ぎ、受け継いでいってほしい



* * * * * * * * * *

本作は興味はあったのですが、
「焼き直しかー」と思って公開時には見ていませんでした。
というのは、
ある教師が手におえないほどに荒れた高校生たちを指導し、
アウシュビッツの悲劇を調べ発表するという取り組みをして、
高校生自身の成長をも促すというストーリー、
実は「フリーダム・ライターズ」というアメリカ作品にもあるのです。
こちらも実話を元にしていて、舞台はL.A. 
教師役はヒラリー・スワンク。

→「フリーダム・ライターズ」

しかしまあ、こちらの作品も見ておきましょうと、この度拝見。



パリ郊外、移民が多く、つまり貧困層も多い地域にあるレオン・ブルム高校。
その中でも落ちこぼれの集まるクラスを担当した歴史教師アンヌ・ゲゲンは
全国歴史コンクールに参加するよう生徒たちに勧めます。
テーマは「アウシュビッツの子供と若者」。
そもそもアウシュビッツのこともあまり良くわかっていない生徒たちですが、
そのあまりにも大きく重いテーマに、
「自分たちにはムリだ」
「どうせうまく行かなくて、笑われるだけ」
と思うのです。
しかも人種も宗教もばらばらな彼・彼女らは、
いつもいがみ合い、乱闘騒ぎまで始まる始末。
でも、この重い歴史の前に、真剣にならざるを得なくなっていきます。
そして、実際にアウシュビッツに収容され生き残った方の体験談を聞いてからは、
クラス一団となり熱心に取り組むようになっていくのです。



本作は、本人役で登場しているアハメット・ドゥラメが、
自身の高校での体験をもとに書いたシナリオを
監督のもとに持ち込み、映画化が実現したとのこと。
決して焼き直しというわけではないんですね。
そして、考えてみたら若い人にとってはいつでも「アウシュビッツ」の話は新しいのです。
副題にもある通り、語り継いでゆく必要があることなんですね。
だから、また10年後くらいに
どこかの高校で行った同様の取り組みが映画化されるといいな、
と、そんな風に思った次第。



しかし、アウシュビッツに収容されたのはユダヤ人だけではなくて、
ロマの人々も・・・ということをはじめて知りました。



ところで本作の冒頭に、
イスラム教徒らしきスカーフをかぶった生徒が
校内に入ろうとするのを止められるシーンがあるのです。
自由のはずの国で、どうして?とその時私は思ったのですが、
フランスの公立学校は無宗教を原則としているのですね。
もちろん、何を信じるかは個人の自由。
だけれどもおそらく、あまりにも異種の宗教を持つ人がいるために、
そのままにしておくと校内で対立して大変なことになってしまうのでしょう。
だから、校内では誰もが一旦宗教を脱ぎ捨てて、
まっさらな状態でいるようにと定められたことなのだろうと思います。
学校に宗教を持ち込んではいけない、というのが大前提。
そうでなければ成り立たない場がある、
というのは日本では考えられないことですが。



けれども、そんな宗教や人種を超えて、私たちは理解しあい協力し合うことができる。
決して「分断」だけではダメなんですよね。
そういうことも本作では言っています。

奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ[DVD]
アリアンヌ・アスカリッド,アハメッド・ドゥラメ,ノエミ・メルラン,ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ,ステファン・バック
バップ


「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」
2014年/フランス/105分
監督:マリー・カスティーユ・マンシオン・シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメット・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌビエーブ・ムニシュ、ステファン・バック
歴史発掘度★★★☆☆
青春度★★★★☆