映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「1Q84 BOOK1・2」 村上春樹

2009年09月06日 | 本(その他)
1Q84 BOOK 1
村上 春樹
新潮社

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1Q84 BOOK 2
村上 春樹
新潮社

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一時品切れまで出た、ウルトラベストセラー。
読みました。
さすがです。
不思議で、切なく美しい物語でした。


物語は1984年の出来事なのですが、
主人公の二人はいつの間にか、
月が二つある別の1Q84年の世界に入り込んでしまうのです。


この二人というのが、青豆と天吾。
不思議な名前ですよね。青豆(アオマメ)。
私は何かでこの本の紹介文を見たときに、
なんとなく少年を思い浮かべてしまったのですが、
これはれっきとした30歳の女性なんですよ。
本人も、この珍しい名前には苦労させられている、
というくだりもちゃんとあります。

彼女はスポーツクラブのインストラクターなのですが、
実は人にはいえない裏の仕事を持っています。
クールでタフな青豆さん。
その彼女は、小学校の時に同級生の天吾に心惹かれるんですね。
それはほのかな初恋などと言うものではなくて、
もっと根源的に、
自分と同じものからできている魂の片割れと一つになりたい本能
・・・とでも言うような。
二人は、ろくに話をしたこともなく、
たった一度教室で手を握り合った、それだけ。
その後もずっと離れ離れで、連絡を取り合ったこともない。
けれども、この二人はそれぞれに、
お互いが運命の相手であることを確信するんですね。
小学校の4年生で・・・。
すごいです・・・。

物語は、この青豆と天吾の話が交互に語られていきます。

さて、天吾の方は、予備校で数学の講師をしていますが、
実は小説家を目指している。
そんな時、ふかえりという少女の「空気さなぎ」という小説に出会うのですね。
不思議なファンタジーめいた話なのですが、
このつたない文章を、天吾が書き直して世に出すことになる。

二人それぞれのストーリーに次第に接点が浮かび上がり、
二人は知らずのうちに、
このねじれた1Q84の世界の中で重要な位置を占め始める。

リトル・ピープルとは?
空気さなぎとは?
ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」の秘密とは?
二つの月は何を意味するのか?
パシヴァとレシヴァとは?

謎はたくさんあります。
解説本まであるくらいですから、
私などがあれこれ言えるものではありません・・・。
でも、この不可思議な世界には、
奇想天外とか荒唐無稽、などという形容は全く適さない。
もっと密やかな、本当の世界の根源の秘密のにおいがあります。
ファンタジーであり、SFでもあり、純愛の物語でもある・・・。
どのように受け取るかは、読む人の興味中心でいいのだろうと思います。
私は、やはり二人の魂の求めあいがメインと受け止めましたけれど。
それなので、私にとって最も切なく印象的だったのは、
青豆と天吾の最接近のシーンですね。

最後まで「出会う」ことのない二人なのですが、
二人の思いがすぐ近くで同時に交差する瞬間があります。
10歳の時に手を握り合っただけでありながら、
魂の片割れとして求めあうこの美しく純粋で哀しい思い。

結局のところ、人は1人であって、2人は一つになれない。
だからこそ求め合い、叶わぬ思いに傷ついてしまう。
そういうことなのかなあ・・・と思います。
・・・これぞ村上春樹なんですよねえ。
結構えぐいシーンもありながら、
このように胸が締め付けられるような純粋な愛を語ることができる、
というのには感服します。

青豆は、女性から見てもすごく魅力的です。
一見美人風、
でも、ひとたび顔をしかめると、強烈に印象が変る
・・・というか、ひどくなるという。
禿げた中年が好みの必殺仕事人。
・・・この人物造形、誰にも真似できませんね。
勇気。実行力。とにかく鮮烈です。
実際にはどこにもいなさそうな女性。
だから、こんなありそうにないネーミングなのかしら???とも思います。

また、天吾のほうも、いいんだなあ・・・。
全体に、村上春樹作中人物の男性は、優しいですよね。
料理なんかも苦にしないし、ちょっとぶっきらぼうで、感性が鋭い。
う~ん。タイプだなあ・・・。
(そんなことはどうでもいい???)

何にしても、こんな作品に出会えることって、
とっても幸せなことだなあ
・・・という思いを噛み締めております。

満足度★★★★★

・・・そういえば、今年は2009年ですよね。
皆様、あまり突拍子もない行動に出て、
200Q年に迷い込みませんように・・・。
民主党が政権をとったこの世界は200Q年・・・
ではないですよね・・・!?