映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

札幌シルバリー男声合唱団のこと

2007年05月26日 | コンサート

2007年5月26日、札幌共済ホールにて、札幌シルバリー男声合唱団のコンサートがありました。
平均年齢74歳という男性合唱団。
ほとんどの人が、退職後初めて歌ったという方々です。
実はうちの父もその一人。
だから、まあ、身びいきな話にしたいとは思いつつ、私、プロの演奏は聞きなれておりますので、正直、レベルはそれほど高くはないです。

この合唱団は今年で結成15周年。
うちの父も割と早い時期から加わっており、2年に一度のこのコンサートには、いつも狩り出されております。
観客は早い話が、それぞれの身内がほとんどなんですけどね・・・。
初めて、聞いたときには意外と素敵じゃない!?と思いました。
おじいちゃんばかりですから、もっと、いい加減なものかと、実は思ってしまっていたので・・・。
ところがですよ、回を増すごとに、このレベルが低下していく・・・。
なんだか、よれよれになっていく。
少しずつ新しいメンバーも入っているようなのですが、ほとんど、同じメンバー、つまり、全体にどんどん老化が進んでいく。
悲しいことですが、声も出にくくなり、歌詞も覚えにくくなっているというのが実態のようです。
年をとるというのはそういうことなんだなあ・・・、と思わず実感してしまうのですね。
いや、でも、その割には皆さん、ボケもせず、かくしゃくとしているのは、このように定期的に集まり、歌っているからに違いありません。
体が動く限りは、がんばってほしいものだと思います。

さて、そんな中で、ラストの唱歌メドレーにはちょっと心揺さぶられました。
日本の懐かしい童謡ですが、
「うさぎ追いしあの山・・・」おなじみの「故郷」から始まって、
春の小川、朧月夜、鯉のぼり、茶摘、夏は来ぬ、
・・・・つまり、少しずつ季節が変化していくのです。
春、夏、秋、冬・・・。
じっくり、歌詞に耳を傾けてみました。
こんなにゆったり、唱歌を聴くのも久しぶりかもしれません。
誰かの言葉ではありませんが、「美しい日本」がそこにあります。
今はもう幻かもしれない、美しい日本。
これを歌っているおじいちゃん方も、いろいろな感慨がありそうに思えました。
ご自分の懐かしい故郷の風景、子供の頃の情景などを思い浮かべたかも知れません。
そして、最後にはもう一度「故郷」。
止めを刺された感じですね。
郷愁の念。思わず、涙がこぼれました。
この情感は、やはり、年齢をかさねたこのチームだからこそ、出せたのではないかと思います。

ヨレヨレなんていってごめんなさい。
また、この次も聞きに行きますので、よろしくお願いいたします。


「1ポンドの悲しみ」 石田衣良

2007年05月26日 | 本(恋愛)

「1ポンドの悲しみ」 石田衣良 集英社文庫

短篇集。しかもすべてラブストーリーです。
「スローグッドバイ」に続く恋愛短篇の第二集ということなのですが、残念ながらそちらのほうは読んでいませんでした。
この本に登場する女性たちは皆30代前半。
もう、うきうきとはじけるような恋をする年でもないし、容姿も、絶頂を過ぎてきている頃。
う~ん、でも30代は私から見ればぜんぜん若くて、はつらつとしていますけどね。
未婚、既婚、立場はさまざまですが、微妙に揺れる女心を、実に素敵に描いていると思います。

私が気に入ったのは、「11月のつぼみ」という作品。
夫とまだ幼い息子もいる英恵は、花屋に勤めている。
そこへ必ず週一回訪れて花を買っていく客の芹沢。
ほんの少し、会話を交わすだけなのだけれど、なぜかいつもそれが楽しみになっていることに気がつきます。
やんちゃ盛りの息子と、仕事ばかりで一日にほんの数分も自分をちゃんと見ようとしない夫。
このままでは生活に疲れ、どんどん乾いていってしまう、と思う英恵にとっては、きちんと正面から自分を見て話しかけてくれる芹沢が、好ましく思えたのです。
あるとき、実は芹沢も彼女を気に入って、毎週花を買いに来ていたということがわかります。
そこで二人は初めて”デート”の約束をするのですが、待ち合わせた公園の池の周りをしばらく歩いただけでした。
お互いの気持ちは十分に通じ、分かり合いながらも、それぞれの生活を壊してまでもというところまでは行かない。
最後に指先を握り合っただけの、はかない恋。
芹沢は転勤が決まって、これが最初で最後のデートとなりました。
愛ともまだ呼べない、けれど、友情ではなくて、やはり、男女の心の物語なのですね。
咲くことのなかった、つぼみ。そんなしずかな物語です。


さて、こんなふうで、これは思ったより、ピュアな恋愛ものなのか?
と、思いきや、次第に濃密さを増していきまして、この表題の「1ポンドの悲しみ」は思い切りベッドシーン満開です。
私は、朝の通勤バスでこれを読み始めて、思わず、あたりを見回してしまいました。
ううっ、いくらなんでも、朝からこれは濃すぎる!!
心残りながらも、途中で閉じましたが、これは遠距離恋愛で、一ヶ月ぶりにあった男女のお話。
けれど、結局読後感はさほどいやらしい印象がない。
このように濃密な描写をこんなにきれいに描けるのも、すごいなあ・・・と、改めて思ってしまいました。
お勧めの一冊です。