川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

久世濃子さんのオランウータン論文紹介(実はいきがかり上共著)研究者ダマシイについて追記

2011-08-09 22:03:41 | 川のこと、水のこと、生き物のこと
27_21_2去年、マレーシア側のボルネオ、サバ州のダナムバレーにて撮った写真。
実は、オランウータンの珍しい巣作り(&夜食)のシーンだったらしくて、霊長研のPrimate ResearchのShort letterになりました。

”A wild Borneo orangutan carries large numbers of branches on the neck for feeding and nest building in the Danum Valley Conservation Area”(ダナムバレー森林保護区の野生ボルネオ・オランウータンが採食と巣作りの為に大量の枝を肩にのせて運搬した事例の報告)

とりあえず日本語要旨。
http://www.jstage.jst.go.jp/article/psj/27/1/27_21/_article/-char/ja/

そして論文(PDF)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/psj/27/1/21/_pdf/-char/ja/

要旨だけ読んでもらえれば、分かる通り、重要なのはどちらかというと、↓の方の写真です。
27_21_1
でも、ちょっと静止画では分かりにくいですね。

ちなみに、これらの写真と一緒に、動画が下記リンクで観られます。動画はそのままファイル落ちてきます。
http://www.jstage.jst.go.jp/article/psj/27/1/27_21/_applist/-char/ja/

この論文をまとめる課程で、Refereeとのやりとりを間近に見ることができたり、とても面白かったです。

それにもまして、このシーンに出くわした経緯など、久世さんの執念というかなんとうか、研究者魂の部分は、また余裕がある時にでも書き足すことといたしませう。

本日は、論文発表のお知らせまで。

2011.8.9追記
余裕が出来たので、フィールド研究者ダマシイについてちょっと(デスマスやめる)。

ぼくがこのシーンに出会うことができたのは、ほとんど偶然なのだけれど、研究者である久世濃子さんにとっては、偶然でもなんでもなくて、かなり必然な部分だった。
彼女があきらめたら、見られるものも見られなくなったという意味で。

オランウータンのフィールド調査は、発見→追跡調査→オランウータンが巣作りして活動停止、というところで一段落する。巣を作ったら翌朝も同じ場所にいるので、活動開始前に駆けつけて、一日追跡、というのが通常パターン。

で、活動停止後、彼らが何をやってるのかって、実は分からないわけ。
通常は下から樹上の巣を見上げ、これできょうはオヤスミだな、というところで観察が出来なくなる。じゃあ、巣の中で、彼ら・彼女らが何をしているのかというのは、非常に観察例が少なくて、研究者なら見たくて仕方ない! でも、それができるシチュエーションは野生では滅多にないから報告も少ない。

この日、ぼくらが付いていった子はシーナという女子。
普段よりもよく動き、どんどん丘の上にのぼっていく方向で、樹上移動していった。これは観察者にはきつくて、特に丘に上がっていく部分は下生えがたくさんあり、山刀で道を切り開きつつ、といった状況に陥った。

シーナはその丘というか小山の斜面に生えた木(イチジク系?)の枝別れの部分に巣を作り始めたのが夕方6時前だったか。巣作りは本当に迅速で、ほんの5分、10分で仕上がった。

本来なら、ここで観察終了で、宿に戻ることになるのだが、久世さんは、ふと思いついてしまったわけだ。
丘をどんどん登っていけば、巣の中が見えるんじゃないか、と。

それで、昇りましたとも。がんばって!
かなり急峻だから、水平距離がそれほど離れずに巣の中が見えるというのがポイント。
何度もすっころんだりしつつ、「ここしかない!」というポイントを久世さんが発見したわけ。
いや、本当にぼくはラッキーだった。

巣の中をみてみると、シーナはまだ休んでなんかいなかった。
もういつでも横になれそうなのに、さらに沢山枝を持ってきて頭にかぶったり、小さな実(イチジク系)を夜食とでもいうように食べたりしている。

ぼくの手元にデータは今ないけれど(さがせばどこかにある)、たぶん15分以上、枝を運んだり、ちまちま食べたり、就寝前のクールダウンをしていたのではないかなあ。

その間、同行していた現地採用の助手さんたち4人のうち3人は、シーナの巣の下で待っていた。残り一人はぼくと久世さんと一緒に来て、ハイビジョン映像を撮影した。

結局、日没が近かったり(暗い熱帯雨林の中を帰るのは、結構あぶない。別に猛獣がでるぞ、というのではなく)、助手さんにそんな無理はさせられないというもあって、どこまで「引っ張る」かというのは、現場のボスである久世さんにすべてがかかっている。

極端な話、助手がすごく疲れているので(結構ハードな一日だった)、あきらめて帰るのも選択肢だった。でも、そこで、あと15分とか時間を決めて、モチベーションの維持を図り、なんとか最後まで観察仕切ったゆえの成果だった。

以上、フィールドの研究者ダマシイの話でした。


土壌調査で得た結果をチェルノブイリの汚染区分に当てはめることについての素朴な疑問

2011-08-09 19:36:20 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
昨日、発表された木下黄太グループによる、土壌調査について。
素朴な疑問をいくつか。このエントリは、疑問が解消されれば消すかもしれないし、有益だと思えば手を入れて残すかもしれない。

いずれにしても、ぼくが確定的な意見を述べるというよりも、足りない部分もありつつ、疑問に思っていることをリストアップする形式をとる(Twitterでツイートしていても、面倒なので)。その中で、明らかに良いと思ったものについては良いと言い、明らかにダメと思ったらダメというかもしれない。

さて、木下グループ(放射線防護プロジェクトという冠と、木下氏の関係がよく分からないのだが、ブログ、Twitter、Facebookなどを通じて、木下氏の求心力のもとに、自発的に組織された印象を抱いており、ざっくりと木下グループと呼ばせていただく)の調査をぼくは基本的に、市民による調査、それもかなり統一した方法で行った調査として、良い仕事であると捉えている。

まず土壌調査についてはこちら。マップもテーブル形式も両方PDFでみられる。
http://www.radiationdefense.jp/investigation/metropolitan
これをもとに、木下グループは、首都圏の汚染を訴えており、ぼくも、ここで見つかった土壌汚染の大きな場所は、精査の上、除染を進めてもらいたいと思う。その点において、本当に「良い仕事」だ。

その上で、気になっているのは、チェルノブイリの汚染区分との比較。

この結果をもって、チェルノブイリの第○区分といったふうに説明するのは、リスクコミュニケーションとしてどうなのだろう。

木下グループは警鐘をならしているつもりだと思うけれど、リスクについてどう考え、どう伝えるかという意識を持つのはとても重要。分かりやすければそれでいい、というのでは、いけない。

ぼくが素朴に疑問に思っているのは2点。

1.チェルノブイリでこの汚染区分ができたのは、事故から5年後の1991年で、かつ、汚染のゾーニングの基準になっているのはセシウム137のみ。半減期が2年と短めの134はカウントされていないが、木下グループはこれも足しあわせて「汚染区分」と比較している。

2.木下グループが測定した土壌汚染の値は、そのまま地域を代表させてよいものか、という点(これは本当に分からない。チェルノブイリではどうやってゾーニング際の値を決めたのか)。


1について。
現時点において、福島事故で放出された、半減期30年のセシウム137も、2年そこそこのセシウム134も、だいたい同じくらいの量残存しており、今の汚染を考えるには、137と134を足すというのは、合理的かも、と理解できる。

その反面、チェルノブイリ汚染区分と比較したいなら、やはりミスリーティング(知らされた人を違った結論・決断に導く)と思う。特にマップは、地域全体が汚染地帯に見えてしまう印象を人に与え、センセーショナルだ。

東京でも第○汚染区分とした述べる場合、「東京でもチェルノブイリ並の被害がでるかもしれない」と警告が含意されているように思う(もっとも、チェルノブイリの被害についての見解は、もの凄く幅があって、どれが落としどころなのか、ぼくには判じかねる)。

しかし、実際、チェルノブイリで今の汚染区分ができたのは事故から5年たってからであり、その時点では、土壌の流出や、セシウム134の2半減期によって、随分、汚染が軽くなっている状態であるはず。その状態での区分だということに留意しよう。

そういうものに、今の東京を当てはめると、どうしても東京の汚染を過大に評価することになる。事故後半年の水準では、チェルノブイリ第4汚染区分の地域は、今の東京の当該地域よりもっと汚染されていただろう。また、カウントされないセシウム134も東京より多く、汚染区分のみからでは見えない実質的な被曝はさらに大きかったろう。

まあ、くどくど書くまでもなく、今回の木下グループ調査で、セシウム137だけで考えると、多くの場所が汚染区分からはずれる(ざっと数えたら、第4から半分くらいがはずれそう)。「あなたの住んでいる地域は、チェルノブイリの汚染区分にひっかかるほど汚染されているから、移住したほうがいい」というのは、ぼくはおかしいと思う。(もちろん、汚染区分と関係なく、とても心配で、移住したくて、かつ、できる人は移住すればいい。それは個人、家族の選択だ)。

予防原則として、大きめに見積もるのが問題なしという立場はありえるが、その場合は、ちゃんと大きく見積もっていることを明示しないと不誠実である。

ぼくは、むしろチェルノブイリがどうのと言う問題ではなく、危険なところを発見したら、ちゃんと処理していこう、という姿勢が大切と思うし、そのきっかけをくれたことが、この調査の重要性と見ている。
(追記、セシウム137と134を足しても、誤差は倍くらいにしかならない。何十倍という話ではない。だから、そんなに目くじら立てることじゃないと思い当たった。しかし、ここでぼくがあえてこういうことを書いたのは、チェルノブイリという言葉が、人の心理に作用するマジックワードと化している今、使うのは慎重に、という意味が強いと書いてから気づいた)


2について。
これは本当によく分からない。
木下グループは植え込み・庭など、わりと高い値が出やすいところを測っている場合が多い。これは、個人による測定なので、そうなったと解釈している。

しかし、町中が植え込みや庭であるはずもなく、高い値と低い値がまだらになっていることがほとんどだろう。また都市部では、土が露出している部分があまりないことも多く、単純に、「植え込み」「庭」などの値を代表させるわけにはいかないだろう。

この点、チェルノブイリの汚染区分ではどうやって具体的な測定をしたのか。是非知りたい。
航空機から線量・スペクトルをみて調べたというツイートをみたが、本当かどうか分からない。
勢い余って、ウクライナの政府系機関にメールしてみたけれど、今の所、返事はない。

ぼくの今の予測で、木下グループではここでも、結果的に、東京の汚染を大きく見たて、チェルノブイリ汚染区分の領域に引き上げたことになったのではないか、と予測している。
(追記、先の追記との関係で、この部分での疑問は、結構重要かもしれない。なおTwitterで実際に木下グループの土壌調査に参加した方からコメントをいただいたので、追記4参照)

また繰り返すけど、チェルノブイリと関係なく、汚染された場所を見つけたらなんとかしましょう、というのは変わりない。

なお、チェルノブイリの汚染区分については京大の今中氏が、いろいろと書いてくれているので、ぼくは基本的情報の多くを彼の文章から得ている。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Nas95-J.html

以上、木下グループの土壌調査について、「チェルノブイリ汚染区分」のあてはめが、比較として適切か、リスクコミュニケーションとしていかがなものか、という素朴な疑問を書いた。

今のところは、適切ではない、というのが結論。
比べるなというのではない(比べるのは重要)。比べ方が適切ではないという意見である。

中には、本当に疑問のままの部分もあるので、ご存じの方はぜひご教示を。随時反映させるつもり。または、自分の根本的な疑問が解消したら消すかも知れない。

よろしくお願いします。

追記
ツイートでのやりとりで、東京レベルの土壌汚染は、むしろ、チェルノブイリ原発事故の際のスウェーデン、ドイツが参考になるのではないか、という意見をいただいた。住民に情報が与えられず、長期間ノーガードのまま危険にさらされたベラルーシやウクライナに対して、ドイツやスウェーデンは当初から様々な対策を行ってることも注目に値するとか。

スウェーデン情報は多少こちらにある。
http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/40ff41f6ef9ce6da50cffd378d430701

興味深いのは、都市部住民が受けた内部被曝は、チェルノブイリ原発事故の1年後にピークになるのだが、それより以前に1965年あたりにもっと大きなピークがあることだ(大気中核実験が一番多かった頃)。

追記2
東京のことより、福島の方が先だろうという指摘をいただいた。
どちらか一つを選ばねばならないとしたら、そうだろうと思う。
でも、これは、あれかこれか、二者択一の問題ではないので。

追記3
本文に書くの忘れた。でも、わりと大事なこと。
上の京大・今中氏が掲げている「放射能汚染ゾーンの定義」では、土壌汚染密度だけではなくて、年間の被曝量も併記してある。

それによると、第3区分の「移住権利ゾーン」は年間1mSv以上の地域(日本での一般人の年間限度以上)、第4区分の「放射能管理強化ゾーン」は0.5mSv(日本での一般人の年間限度以下でもここに入る)で厳しい基準だ。

チェルノブイリの汚染地域ときくとそれだけでビビるけど、ここのとこも見ておいた方がバランスがよい。

なお、第2区分の「移住義務ゾーン」は年間5mSv以上。20mSvから1mSvを目指す福島は、本気でそれを実現してほしいと切実に気づかされると、いう部分もこの基準にはある。

追記4
Twitterにて、調査に参加した方から、「採取の際に、雨樋の下とか、たまってそうな場所とか、特に高そうなとこを選ぶのはやめて下さいと前もってアナウンスがありました」とコメントをもらった。
それは、たしか木下ブログにも書いてあったような気がするし、ぼくは、そういう意味で、「特別高い所」を狙って採集したとは思っていない。散発的な野良計測をするのではなく、統一したやりかたで意味のある測定をしようとしている人たちなわけで、それくらいの期待も信頼もしていますので。

で、その上で、庭や植え込みは、すぐに洗い流されがちなアスファルトの上とは違うだろうし、特に都市部などでは、「代表値」として使うのはどうだろうと思っている、というのが本文中の懸念です。

また、チェルノブイリの汚染区分と比較するなら、チェルノブイリでの測定法を知りたいと言っておるわけです。

追記
8月10日の時点で、航空機モニタリングの結果を利用してチェルノブイリとの比較をしてる人がいました。
http://genpatsu.sblo.jp/article/47289931.html

また、海外での9.11(震災半年)のnature記事でも同様に、Cs137を用いての比較が。
http://blogs.nature.com/news/2011/09/directly_comparing_fukushima_t.html