原発と日本の未来――原子力は温暖化対策の切り札か (岩波ブックレット) 価格:¥ 525(税込) 発売日:2011-02-09 |
不気味なまでにタイムリーに出版されたブックレットだった。
別に原発の危険性を告発した予言の書、というわけではない。
内容は1999年の「原子力の社会史」後の経緯+「2011年3月11日以前に見えた風景から描く将来展望と判断のための材料提供」といった具合か。
著者は原子力委員会や、経産省総合エネルギー調査会にかかわり、非・推進派としての原発行政のインサイダーになった希有な経歴を持つ。その目で、311以前に見通すことができた、原子力をめぐる風景をコンパクトにまとまめてくれているだけでも、「予言の書」以上の価値が生じる。
「予言」なら、潜在する危険が成就してしまった今、役割りを果たし終えたことになるが、本書は311以前の原子力行政のいわば平常時の姿を、決定的に風景が変わってしまった今からでも振り返りうる形で示してくれるからだ。
このブックレットを一読すれば(さらに欲をいえば1999年の「原子力の社会史」とあわせ読めば)、世界に例を見ない「社会主義的」な発展をしてきた、国策としての日本の原発がいかなる構造のもとに、不条理・不合理な構造を温存したまま「推進」しえたか理解できるし、今この瞬間でも我々の頭の中で整理できない、政府、東電、メーカー、原子力委員会などの関係もある程度見えてくる。
例えば──
復興会議では原子力を議論しない、との方針に、大方の人は驚きを禁じ得なかっただろうが、本書で言及される強固な原発行政はの根っこは、まさにああいう判断と整合するものだ。
まだシビアアクシデントが収束すらしていないこの時期にも、その「根っこ」が、しっかりと機能し、旧来の「国策」、そして、政治すら関与できな自律体としての聖域を維持しようとしているわけだ。
これについておそらく著者の意見はノーであろうし、ぼくもノーといいたい。
筆者は原子力行政に日本の縮図を見ており、原発とエネルギー政策について、我々が、どのような形でかかわり、どのような施策を実現できるかは、原子力の未来だけではなく日本の将来像にも大きくかかわると考えているようだ。ブックレットのタイトルが、「日本の原発」の未来ではなく、原発と「日本の未来」であることに注意。
日本の縮図というのは、ある特定の分野ながら、ああこれってまさに普遍的な問題だ!と叫びたくなるような要素がぎゅっと固まったミクロコスモスのごときもの。そういう「特定分野」は数々あろうが、原発方面の「縮図」はかなり大きく、密度も濃い。半端ではないカネが動く。「日本の未来」という将来像も含めたリスクやコストや、カネですら測りきれないものが動く。
捕鯨にも日本の縮図があり、水俣病もPTAにも、日本の縮図がある。
PTAと原発というテーマについては、つい最近PTAの学年委員さんとつい話し込んでしまった。ま、かなり強引なアナロジーだが、「動けない」「動かない」「変わらない」「変われない」理由には、通底する部分はあるのだ。
原子力の社会史―その日本的展開 (朝日選書) 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:1999-04 |