内田さんの浅見光彦シリーズ(旅情ミステリー)は、パターンがあり、まずエピローグで内容の暗示があり、その後、本論に入って、最後にエピローグで余韻を示します。
比較的最後の個所で、一気に迷宮入りしていた複雑な問題が解決するのも特徴です。読者はあと数ページしかないのに、大丈夫かなと心配しますが、うまくさばかれています。
そこまで行くプロセスで読者はかなり、振り回されます。この「長崎殺人事件」もそうで、「蝶々夫人の祟り」がキーワードで長崎らしいと思っていると、最後でそれは「町長夫人」の聞き間違いということで、肩すかしをくらいます。
本作品は、松波春香という長崎の老補カステラ屋の娘から浅見光彦に「助けてほしい」と手紙が届くところから始まります。父親が殺人事件で容疑をかけられ、留置、送検されるという設定。続いて市の観光課課長、病院の院長がいずれもグラバー園内で連続的に薬を嚥下して結果として殺され、市内は騒然となります。
おりしもポルトガル村というテーマパーク開発で対立があり、それとの関連が問われます。真相究明は過去にさかのぼり、父親と今では鼈甲屋の店長になっている美貌の女性とがむかし恋愛がらみで心中事件を起こした事件、そのおりに心中を止めた三上という男のその後、複雑に人間関係が錯綜して話が展開していきます。
今回は、浅見の勘、想像力がさえわたり、問題は見事に解決されます。犯人はいつものように意外な人物であり、最後まで予断がつかなかなかったです。
面白かったのは、内田康夫という推理作家、すなわちご本人が、小説のなかに登場することで、浅見光彦とのやりとりが笑えます。