阿部彩『子どもの貧困』岩波新書、2009年
子どもの貧困は、健康、学力など、その子のその後の人生全般に不利をもたらします。
「社会が許すべきでない生活水準=子どもの貧困」(「はじめに」 v ページ)とは何か? 本書の全体が、著者によるその回答です。
「少子化対策」はあっても「子ども対策」がないのが日本です。欧米にはあります。その原因は、日本には子どもの貧困の把握という視点がないことです。非行、おちこぼれ、児童虐待という個別事象を表現する用語はあるのですが、「子どもの貧困」という包括的概念がないのです。
著者は貧困の定義を、「その社会で一番標準的(中央値)の「手取り」の「世帯所得」の約半分以下の生活」(p.45)というOECDのそれに依拠しています。OECDは2006年にこの定義のもとに日本の貧困率が15.3%で、OECD諸国で最低ランクにあると報告しました(p.41)。
なかでも母子世帯の子ども、0歳から2歳の乳幼児、若い父親をもつ子ども、多子世帯の子どもの貧困率が高いらしいのです。
本書は多くのデータを利活用して、日本の子どもの貧困の実態をあぶりだしています。とくに、子どもにとって必要でありながら欠如を強いられた「剥奪」に関する調査(「社会的必需品」調査)は注目に値します。
分析をふまえたうえで、筆者は子どもの貧困に対処する日本の家族政策の問題点を指摘し、それを克服する提言を行っています。アメリカで実施されているEarly Head Startがそれであり、また子どものウエル・ビーイングの確保の施策、イギリスのCPAG(Child Poverty Action Group)に準拠した「子どもの貧困ゼロ社会への11のステップ」です。さらに、給付つき税額控除は、子どものある世帯に対する支援策として先進諸国で近年比重を高めていて、実現可能な措置とのことでした。