世界一の冠
30年ほど前、ウチナーンチュにとって衝撃的なことが起こった。沖縄が本土復帰してまだ間もない頃、標準語をまともにしゃべれない人が多かった頃、言葉でも文化でも品格でも何かしらナイチャー(内地人:倭人のこと)に対し劣等感を抱いていた頃のことである。「どうだ!見たか!これがウチナーンチュの底力だ!」と多くのウチナーンチュが思い、日本国民として堂々と生きていけそうだぞ、と自信を持つようになった出来事。
石垣島生まれの小さな男が世界一のベルトを腰に締めた。目には見えないが、その頭上には世界一の冠が輝いているようにも思えた。男は、現在も日本記録として残っている12回連続世界タイトル防衛という偉業を成し遂げ、ウチナーンチュの歴史の記録に残り、また、ウチナーンチュに大きな勇気を与えたということで、これまでも、そしてこれからも、ウチナーンチュの心の記憶に長く残り続けるであろう。
男は、その強さと、威風堂々とした姿からカンムリワシという名で呼ばれた。カンムリワシの頭上にある冠は、まさに、男の頭上に輝く冠に喩えられた。
そのカンムリワシ、ワシと名がついているが、タカ科の仲間では中くらいの大きさである。ワシとタカは同じタカ科に属し、概ね大型のものをワシ、小型のものをタカと呼んでいる。『沖縄の野鳥』によれば、オジロワシは全長94センチであり、クロハゲワシは105センチもある。それに対し、オオタカは50センチ、アカハラダカ30センチなどとある。カンムリワシは55センチであるが、その容姿の堂々としたところ、あるいは、頭上に冠を頂いているところなどから、大型のワシに匹敵するのであろう。
カンムリワシ(冠鷲)
タカ目タカ科の留鳥 八重山諸島に分布 方言名:タカ
頭頂に白黒斑の長い冠羽があるのでカンムリワシという名。八重山に古くからいたし、カッコイイし、大きいし、目立つので独自の方言名があってもいいと思うのだが、参考文献に記載が無い。サシバの頁でも述べたが、タカの仲間はすべてタカみたいである。
カンムリワシは亜種が多く、東南アジア、中国、インド、その他にそれぞれの亜種が分布し、日本では八重山諸島にのみ固有の亜種が生息している。国指特別定天然記念物となっている。現在、石垣島では生息数が減少したらしいが、西表島ではまだ多く見られるらしい。生息場所は「森林と周辺の水田、湿地など」と文献にあった。私が見たのは仲間川を上流に向かっている船上から、マングローブの茂る川岸の木の上。
全長55センチ。トカゲ類、ヘビ類、ネズミ、カエル、カニなどの他、昆虫なども捕食する。樹上や電信柱の高いところに止まり、待ち伏せして獲物を狙う。
元プロボクシング世界チャンピオン具志堅用高は石垣島の出身。彼がトレードマークとしてカンムリワシを使い、カンムリワシは一躍有名になった。
上の写真は友人のOが西表島で撮ったもの。それを拝借。
私が撮った写真。判りにくいけれど中央にいる。仲間川を上っている途中の樹上。
記:ガジ丸 2006.2.15 →沖縄の動物目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄の野鳥』沖縄野鳥研究会編、(株)新報出版発行
『いちむし』アクアコーラル企画発行