夏の暑さにも負けぬ
雨(豪雨除く)にも風(台風除く)にも負けないウチナーンチュは、降った試しの無い雪にも当然、負けたことは無い。が、夏の暑さは、あまりにも厳しいので、勝てないんじゃないの?負けてもいいんじゃないの?戦わない方がいいんじゃないの?などという対応になってしまう。宮沢賢二の境地にはなれない。
脱サラ農夫の友人Tによれば、ハルサー(ハル=畑、サー=する人。農民のこと。ハルアッチャー(歩く人)とも言う)は、夏の暑い日には朝早く畑へ出掛け、昼前には戻り、しばらく昼寝などして、夕方からまた畑へ出掛け、作業するらしい。ガンガン照り付けるギラギラ太陽とは戦わないのだ。私は午前中で終わる。
暑さを避けるということは、日射病になるのを防ぎ、健康を維持するという意味でも大事。朝夕の比較的涼しい時間に作業を行えば能率も上がる。健康的で合理的なのである。スペイン(その他のラテン系の国も)にもシエスタ(siesta)なんていう良い習慣(昼食後に十分な昼寝をする)がある。しかしながら、聞いた話ではその良い習慣、現代ではいくらか廃れているらしい。復活させた方が良いですぜアミーゴ。
そんな良い習慣は沖縄でも、少なくとも(一部の)農夫以外の生活ではもはや見ることができない。生活が本土化されて久しい今では、昼休みに3時間、4時間なんて取っていたら落伍者となってしまう。人生は競争なのである。社会は戦場なのである。
灼熱の太陽がギラギラしている真夏、内勤の多いサラリーマンは、クーラーの効いた部屋の中で過ごせるからまだいいが、外働きの肉体労働者は命懸けの仕事となる。太陽の下で穴掘り作業などといった重労働をしていると、30分ほどでシャツもズボンもパンツも汗でびっしょり濡れる。体は干からびる。ゴミ拾いなどの軽作業でさえ、太陽に背を向けてやっていると、胸や腹からは汗が流れ出し、着ている服の胸や腹は濡れる。逆に、服の背中側は乾く。ギラギラの太陽が背中にアイロン掛けをやってくれているからだ。襟元から腰までたっぷりとアイロンをかけられ、体が干からびる。
さて、そんな肉体労働者の大きな味方は、何と言ってもビール。仕事が終わって、一風呂浴びて、ジョッキに注いだビールをゴクゴクやる快感は何より勝る。その次には泡盛の水割り。喉の渇きが落ち着いた後に、ゆっくり味わう泡盛もまた格別。そして、夏、肉体労働で疲れた体を癒してくれる上等の野菜がある。これがまた都合良く、夏が旬ときている。その野菜とは、今や全国的に有名になったゴーヤー、倭語でばニガウリ。
酒の肴には生ゴーヤーの酢の物なども良いが、何と言ってもゴーヤー料理の王道はゴーヤーチャンプルー。これには、豆腐、肉なども入っていて、栄養学的に言っても満点の料理。酒の肴にも相性抜群。しかし、ゴーヤーチャンプルーの最も美味しい環境と条件は、夏の日の、肉体労働の最中の昼休みに食うことだ。どんなに悪条件でもゴーヤーチャンプルーがあれば食欲が湧く。午後からの仕事へ向かうエネルギーとなってくれる。ウチナーンチュの肉体労働者が、夏の暑さにも負けぬ丈夫な体でいられるのは、ゴーヤーチャンプルーのお陰であるといっても言い過ぎでは無い、と私は思う。
記:ガジ丸 2005.6.10 →沖縄の飲食目次