パンを焼くより
今のアパートは、入居した当時から、既に築30年は経っているだろうと思われるボロアパートであった。住み始めてから11年半になるが、そのボロ具合はさらに進み、部屋にはカビが増え、埃がたまり、汚れが染み付き、流しの排水溝から水漏れがし、台所の床はところどころボコボコになって抜け落ちそうになり、換気口にはスズメが住みつき、もはや換気の役には立たなくなってしまっている。そして、そこに住むオジサンもまたさらにオジサン具合が進み、白髪が増え、皺が増え、小便の切れが悪くなり、けがの治りが遅くなり、物忘れが多くなり、肩凝りに悩まされ、老眼にもなってしまった。家も人間もただただ歳とっていく。ただただ、草臥れていくのみだ。
家も人間も、草臥れてはいるが、まだモノそのものは同じモノ。ところが、生活道具は2代目、3代目に替わったものが多い。テレビ、ビデオデッキ、洗濯機、冷蔵庫、CDデッキ、炊飯器、ガスコンロ等々は2代目、扇風機にいたっては4代目となっている。相当草臥れてはいるが、オーブントースターもまた2代目、買って5年以上になる。
パン食は平均して月に4、5日ほどある。買ったその日はそのまま食うが、翌日からのパンはたいていトーストしている。しかし、おそらくそのトーストしたパン、多くの人が食べる気はしないであろう。よくもまあこんな汚いトースターでパンを焼いているもんだと驚くくらい、私のトースターは汚いのだ。買ってから一度も洗ったことが無いだけでなく、このトースター、パンを焼くことよりも遥かに、野菜や魚を焼く機会が多いからだ。魚から脂が落ちる。それを洗わない。だから、ひどく汚れている。
トースターで焼く野菜はたいてい決まっている。 今の時期、畑からシマラッキョウが収穫でき、焼きシマラッキョウをトースターで作って、酒の肴にしている。これが旨いのなんのって。・・・畑には無いが、今、私の大好きな旬の食材がスーパーに並んでいる。ソラマメ。莢から取り出し、アルミホイルの上に並べ、これもまたトースターで焼きソラマメにし、酒の肴とする。これがまた旨いのなんのって・・・。
朝飯に目刺を焼いたオーブントースターで、昼飯にパンをトーストする。パンに目刺の匂いが移る。これはしかし、私も「これがまた旨いのなんのって」とは思わない。が、不味くも無い。ちょっと癖のあるパンだと思えば、珍しい食い物を食っているんだという満足感は得られる。・・・満足感というほどの満足では無いけど。
記:ガジ丸 2005.5.24 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行