ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

キセル

2011年03月25日 | 飲食:飲物・嗜好品

 キセルの煙

 25年ほど前の話。吉祥寺駅ビルをブラブラしていたら、喫煙具を売っている店を見つけた。中を覗くと、ライター、パイプなど西洋の喫煙具もあったが、私の視線は煙草盆とキセルの置いてある一角に向いた。
 「おー、風流じゃねぇか」と思い、貧乏だったので煙草盆は買えなかったが、キセルを一つと、刻み煙草を、銘柄は覚えていないが、一箱購入した。
 その一ヵ月後、刻み煙草一箱はその8割方を残したままゴミとなる。キセルは5、6回使っただけであった。紙巻に慣れている青年にとっては、刻みを手に取り、それを丸めて火皿に入れ、マッチで火を点けるという一連の所作に面倒を感じたのである。誰も見ていないところで”独り風流”するのもつまらなかった。

 その時買ったキセルは今でも所持している。あるにはあるが、しかしもう使えない。数年前、「もう俺も風流の似合う齢であろう。キセルもきっと似合うであろう」とJTの販売店へ行き、刻み煙草、小粋という銘柄のものを買い、私のキセルは復活した。その時のキセル生活はしばらく続いた。小粋が半分ほどになった頃、キセルを折ってしまった。
 私の勤める職場は室内禁煙なので、10時や3時の休みで一服するときは外に出る。外のベンチに座って、小粋なオジサンは小粋を手に取り、それを丸めて火皿に入れ、マッチで火を点けるという一連の所作を流れるようにゆったりとこなしていく。隣の家が何か工事をしていて、その作業員である男とその家の若い女性がこっちを見ていた。私は小粋なところを見せてやろうと、煙を空に向かって吐き出した後、視線はそのままに、灰を落とすためキセルの雁首をベンチの縁に打ちつけた。グチャっという音がした。金属でできた雁首では無く、柔らかい竹の部分がベンチの縁に当たったのであった。
  しばらくして、新しいキセルを購入したが、これがどうも具合が悪い。持った感じが不安定だし、吸った時の煙の量も何か安定しない。で、以来、キセルは使っておらず、半分ばかり残っていた刻みの小粋もゴミとなってしまった。いつかまた、良いキセルが手に入ったなら、キセルを復活させようとは考えている。
 タバコは、漢字では煙草と書くことが多いが、莨とも書く。お茶(茶道)の本を読んでいたらその字が出てた。茶事では、待合などに煙草盆は必要な設備として置いてある。煙草盆にはキセルも供えられている。風流な茶事には風流なキセルが似合うようである。

 キセルという発音は広辞苑によるとカンボジア語のkhsierとのこと。漢字では煙管と書き、これはキセルの意味からきている。刻みタバコを入れる火皿を含めた雁首、煙の通る管で、手に持つところである羅宇(らお)、そして吸口からできている。
 全体が金属でできたものもあるが、中間の羅宇は主に竹や木でできており、両端の雁首と吸口だけが金属でできているいるものを多く見る。電車をインチキして乗ることの一つにキセル乗りというのがあるが、乗る駅と降りる駅の分は正規の乗車券、または定期券を使い、乗車券、定期券に含まれない途中の区間をタダ乗りすることを言う。キセルの両端だけが金属でできているところからその名がある。

 刻みとは刻みタバコの略。タバコの葉を刻んだもの。紙巻きタバコの葉は細く、短く刻まれているが、刻みの葉は細長い。独特の味がする。煙を喉や肺で味わうというより、舌に当たる煙の、その味を舌で味わうといった感じになる。簡便な紙巻きタバコ(簡便だからこそ吸いすぎて体に悪い)が流行ってからはキセル愛好者も減り、刻みの消費量も減ったとのこと。現在、JTの販売店では小粋という銘柄1種のみが販売されている。
      
 記:ガジ丸 2006.8.16 →沖縄の飲食目次

 参考文献
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行