ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

家盗り物語

2016年06月10日 | ガジ丸のお話

 5月のある晴れた日の午後、私の畑でのこと。
 「誰だ!お前、何でそこに座っている!」とコシェが私に向かって吠えた。
 「誰だって、俺だ。何でって、ここの主は俺だからだ。」と私は冷静に答える。
 「何だとー!そこは俺達の縄張りだぞ、勝手に座るんじゃない!」とさらに吠える。威嚇するような顔をしているコシェを私はジロっと睨み、
 「ほら、お前の相棒は解っているじゃないか、さっさと畑からも出ようとしている。あいつは賢いんだな、物事が解っている。お前はバカなのか?」
 「何だとー!チクショウ、バカにしやがって!」と言いながらコシェは相棒のミケインの方を振り返った。ミケインは立ち止まって、こっちを見て、顎を振った。そこでようやくコシェも諦めて、「覚えておけー!」と捨て台詞を吐いて、相棒の後を追った。

 その翌日、朝、畑へ出勤し、車を駐車しようとしている時、「誰だ、おめぇ!」と奥の小屋から吠える声が聞こえた。声の方向を見るとコシェであった。その傍にはミケインもいる。ミケインは穏やかな表情のまま、ウージ(サトウキビ)畑へ消えて行った。数秒後には、コシェも諦めたのか、吠えるのを止めてミケインの後に続いて畑へ消えた。
 その姿を一瞥して、私はいつものように畑小屋前のベンチに腰を降ろす。その時、ベンチの上に足跡があるのに気付いた。「あー、奴ら、ここをねぐらにしているかも」と想像した。その翌日も同じようなことが起きて、想像は現実であると判断した。「奴ら、俺の家を乗っ取ろうとしているな、家泥棒だな、そうはさせんぞ」と私はキリリと思う。
 その日、畑から引き上げる前、おそらく彼らが寝床にしているであろう床下にフェンネルの葉を大量に敷いた。フェンネル、人間の鼻でも「おっ!」と感じるほどの香草だ、彼らの鼻だと「きつい」と感じるであろう、もはや寝床にはできないはずだ。
 私の作戦は功を奏したようで、翌日から彼らの姿は私の畑からは消えた。家盗り合戦において、私は我が城を守り抜き、彼らに勝利したと言えるであろう。
     
     

   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 畑の周りは原野が多い。飼えないんだったら最初から飼うな、飼ったら最後まで面倒みろ、飼うのをやめるのなら捨て犬にせず自分の責任で殺処分しろ、などと、私は犬を飼っている人に言いたい。原野には捨て犬であろう野犬がたいていいる。役場の野犬狩りがたびたびやってくるが、1匹がいなくなると、まもなく別の1匹が現れる。
 今年初め頃からは三毛猫みたいな色模様をした1匹の中型犬が、畑の近辺でウロチョロするのが見られた。新参の捨て犬だ、ちっとも吠えない大人しい犬だ。彼(彼女かもしれない)の名前を仮にミケイン(インは犬の沖縄語読み)としておく。彼は長く一匹ぼっちだったが、1ヶ月ほど前から相棒ができた。相棒はシェパードみたいな見た目をしているが体は小さい、今のところミケインより小さい。おそらく、シェパードを含む雑種と思われる。彼(彼女かもしれない)の名前を仮にコ(小)シェとしておく。
     

 5月になってから、この2匹が畑の中に入ってくるようになった。最初は私が小屋前で休んでいる時、ミケインが私の前までやってきて、私に気付くとUターンして去った。そのすぐ後を付いていたコシェは一瞬ポカンとした顔をしていたが、すぐにミケインの後を追って、去って行った。同じことが翌日、翌々日と続いて、3度目のその時は、ミケインはこれまでと同じようにUターンしたが、コシェは私に向かって吠え、威嚇した。私がジロっと睨むと、吠えるのを止め、これまでと同じくミケインの後を追った。
 その翌日、この時期としては定時の朝7時(夏期は朝6時出勤)頃畑へ着く。駐車場のチェーンを外して車をバックで入れる。その最中に犬の吠える声が聞こえた。声の方向は畑小屋だ、見ると、コシェが吠えている。その傍にはミケインもいる。しかし、ミケインはちっとも吠えない。穏やかな顔のまま、私から見て左手のウージ(サトウキビ)畑へ消えて行った。数秒後、コシェも吠えるのを止めてミケインの後に続いた。

 翌日もまた、同じようなことが起きた。コシェが激しく吠える。私はそれに構わず畑小屋に向かう。すると、彼らは前日と同じく、隣のウージ畑へ消えて行った。
 コシェはバカなのか知らないが、その日も相変わらず吠えた。が、兄貴格のミケインが冷静な対応をしているということで、私は「彼らは私を襲うことはしない」と確信していた。ミケインの思慮深そうな顔は、無茶なことはしない犬格者の風情があった。
 その日帰る前、上述したようにフェンネルを彼らが寝床にしているであろう箇所に敷きつめた。そのお陰だと思うが、翌日から2匹は小屋前に姿を見せることはなかった。
     
     

 5月24日の朝、畑へ出勤すると、私の畑の100mほど手前でミケインを見た。しかし、いつも一緒のコシェの姿は見えなかった。その数日前から彼らは私の畑に姿を見せることはなかったのだが、私の畑の周辺、彼らが時々散歩している近辺からも、コシェはその日以降、ミケインも翌日から姿を見せなくなった。野犬狩りに捕まったのかも。

 記:2016.6.3 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次