南の島の旨い刺身
概ね大雑把なウチナーンチュは、物事を細かく分類し、それぞれに名前をつけるなどという面倒なことをあまりしないみたいである。バッタの類はひっくるめてシェーと呼び、チョウ、ガの類はハベル、トンボの類はダーマーとかアーケージェーと呼ぶ。「虫けらごときに名前なんぞ」という気分なのかもしれない。
鳥にはそれぞれに名前がついている。虫は、害虫対策の必要な農夫か、虫に興味を持っている特殊な人でないとなかなかその姿に気付かないが、鳥はその姿をよく目にし、チョンチョンとかピーヨピーヨとかの鳴き声もよく耳に入る。なもんで、「あれは何、これは何」と日常的に会話し、その名前を特定する必要があったのであろう。
魚にもそれぞれに名前がついている。一般人が、「今日はクルキンマチが食べたい」とか「タマンが食べたい」とかいった会話を日常的にするとは思えない。せいぜい、「今日の夕飯は魚にしようね」くらいであろう。だけど魚にはいちいち名前がある。
魚の名前はきっと、漁師がつけている。名前をつけないと漁の計画が立てづらい。名前をつけないと市場で売りづらい。一般人が市場へ魚を買いに行って、値段を見て、名前を見る。「クルキンマチは安いけど、アカマチは高いね」、「タマンはまあまあの値段だけど、マクブは高いね」などと会話しつつ、魚の名前を覚え、漁師のつけた魚の名前が普及していったのではないかと思われる。
漁師でもなく、趣味の釣り人でもない私だが、和名は知らないが方言名なら知っている魚はいくつもある。上記のクルキンマチ、アカマチ、タマン、マクブの他、マーマチ、シチューマチ、ミーバイ、イシミーバイ、クレーミーバイ、アカジンミーバイ、ガーラ、ユダヤガーラ、カーエー、ミジュン、ガチュン、グルクン、グルクマー、チン、チヌマンなどなどなど、本を開かなくてもこの程度の名前はすぐに出てくる。
本と言えば、先日図書館から借りた魚図鑑は、『方言で調べる沖縄の魚図鑑』というタイトル。魚についてはその方言名が大事なのである。
その本の中に「沖縄の三大高級魚の一つ」という文章が3箇所出てくる。当然、その3箇所とは三大高級魚のそれぞれの説明文の中ということである。三大高級魚とはマクブ、アカマチ、アカジン。美味しいもの好きの私は、アカマチ、アカジンが美味い魚であることは、若い頃から知っていて、もう何度も食べているが、マクブの存在を知ったのは3年ほど前のこと。それからは数回口にしている。いずれも美味いことは確かである。
沖縄に来て、美味しい魚が食べたいと思ったら、アカマチ、アカジン、マクブなどを選べば間違いないと思う。ただし、いずれも、私が東京で食べたヒラメに比べると少し落ちる。南の海で育った魚より、冷たい海で厳しく育った方が旨味が増すのかもしれない。
アカマチについては既に、沖縄の飲食『アカマチなど美味刺身3種』で紹介済みであるが、後日、アカマチの皮をカリカリにソテーして(美味いです)食べた写真と、アカマチは煮物でも美味しいので、その写真を今回紹介する。
アカマチ(和名ハマダイ:浜鯛):海産の食用魚
フエダイ科の海産硬骨魚 全長1m 生息場所100m以下の水深 食性は魚類
マクブ(和名シロクラベラ):海産の食用魚
ベラ科の海産硬骨魚 サンゴ礁域に生息 体長1m 甲殻類を食べる
アカジン(和名スジアラ):海産の食用魚
スズキ目ハタ科の海産硬骨魚 全長1m 生息場所はサンゴ礁域
なお、私は食べたこと無いが、ヨナバルマジク(ヨナバルは与那原、沖縄島南部の与那原町のこと。マジクは鯛の一種を指すらしい)という魚がとっても美味しいという噂を聞いている。めったに獲れないらしい。三大高級魚よりも美味しいらしい。食いたい。
記:ガジ丸 2007.2.4 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『方言で調べる沖縄の魚図鑑』横井謙典著、(有)沖縄出版発行