ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

用の美

2011年01月06日 | 沖縄03音楽芸能・美術工芸・文学

  ある日、土瓶、もしくは急須を買いに行った。それまで使っていた土瓶は地産地消の壷屋焼。地産地消だからというだけでなく、壷屋焼は日用の器として役に立つのはもちろんのこと、見た目も私の感性を十分に満足させてくれている。
 私の部屋には土瓶の他、ビールグラス、数個のぐい呑み、湯呑み、どんぶり、コーヒーカップ、からから(泡盛を入れる酒器)などの壷屋焼がある。どれも気に入っている。特にぐい呑みの一つとからからは、その見た目が大好きである。それら2つと並んで土瓶もまた、見た目が大好きなものの一つである。それは今も同じ思いである。

  大好きな土瓶があるのに新しい物を買いに行った。割れてしまったわけでは無い。私が少々せっかちになったからだ。のんびりお茶を注ぐことが嫌になったのだ。
 土瓶は、注ぎ口と接している本体側に小さな穴がいくつも開いている。そこから茶が流れ、そこで茶葉がせき止められる。壷屋焼の、私の大好きな土瓶はその穴が小さすぎて、お茶の出るスピードがとても遅い。満杯にして約500ミリリットル入るが、それを全部注ぎ出すのに2分はかかる。10年以上もの間、その2分を当たり前のように思っていたが、今年の梅雨明け頃から寝坊する日々が続いて、慌しい朝が続いて、お茶がチョロチョロとしか出てこないに土瓶にイライラするようになった。
     
 新しい急須は無印良品のもの。いかにも機械で作った味気ないものだが、お茶を注ぐとサーっと流れ出る。満杯500ミリリットルが10秒位で出切る。大いに満足する。
 お茶を注ぐ2分を楽しめなくなったオジサンは、見た目よりも、また、地産地消よりも機能を選んだというわけだが、少々反省はしている。しかしながら、日用の器は見た目も大事だが、やはり、機能的でなくてはならないと思う。使い勝手が良いということも生活の中の幸せの一つだ。器は使われてこそ美しい。「用の美」である。
  「用の美」とは民芸運動の中で使われた言葉。民芸運動家の柳宗悦は壷屋焼にも「用の美」を見出している。なので、私の愛用していた土瓶は、たまたま穴が小さくて私をイライラさせたが、それによって壷屋焼の価値が下がることは全く無い。

 壷屋焼
 「壷屋(つぼや、方言名チブヤ)は那覇市の町名。古くは沖縄島数箇所に壷屋と呼ばれる場所があった。1682年頃に美里の知花、首里宝口、那覇湧田の三箇所にあった陶窯を牧志村の南に移し合併させた。焼窯の種類は上焼、荒焼、カマグヮー、フースー窯の4種類あった。上焼は釉薬をかけた日用食器、荒焼は水瓶などの大型の容器、カマグヮーは手水鉢など、フースー窯は土瓶などをそれぞれ焼いた。」(沖縄大百科事典より)
     
     
     

 注釈
 「牧志村の南」が現在の壷屋の位置。
 釉薬を施した上焼(ジョウヤチ)に対し、釉薬をかけずに焼き締めたものを荒焼(アラヤチ)と言う。昔は作る製品を分けていたようだが、現在では荒焼の食器も多く見る。

 記:ガジ丸 2008.10.13 →沖縄の生活目次

 参考文献
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行