田園風景1
学生の頃、5年間東京に住んでいた。吉祥寺、武蔵境、小金井、国分寺とアパートは替わった。できるだけ沖縄に近付こうという意識なのでは無く、できるだけ田舎で暮らしたいという意識の現われだったと思う。沖縄の私の実家は那覇市の中心近くにあり、少なくとも住んでいた4つのアパートの周辺よりは都会である。その点からも、沖縄へ近付こうという意識では無く、できるだけ静かな所にいたいという気持ちであったことが判る。
武蔵境のアパートは駅から5分という近さにあって割と賑やかではあったが、他の3つは中央線から離れており、静かなところにアパートはあった。そして、吉祥寺にも小金井にも国分寺にも、アパートの周辺には規模は小さかったが、畑があった。ただ、畑はあったが、田んぼは無かった。武蔵境のアパートの傍には農業大学があって、その中にはおそらく田んぼがあっただろうが、その中に入って、田んぼの景色を見たことは無い。
沖縄には、昔はともかく今は、田んぼがほとんど無い。金武町にいくらか残っているというのは聞い ていて、今住んでいるアパートの前の隣人であるTさんが伊平屋の出身で、年に1度か2度、実家から送られてきたという島米をおすそ分けとして頂いていたので、伊平屋にも田んぼがあることは知っている。八重山にも田んぼがあることは、友人のYから聞いて知っている。が、その3箇所のいずれも私は見たことが無い。
よって、私の脳の中には田園風景の記憶がほとんど無い。田植えをする農夫の姿も、黄金色に輝く稲穂の景色も、しかとは映像として浮かんでこない。そういった風景、旅先で見かけたことはあるだろうが、数が少ないせいで、はっきりとした絵にならない。
ムギワラトンボという字を見たとき、何かしら懐かしい想いに駆られた。おそらく小学校高学年の時の少年雑誌か何かにその言葉があったのだろう。懐かしさと共に、記憶に無いはずの田園風景の絵が浮かんだ。田んぼの、まだ頭を垂れるほどではない稲の上をムギワラトンボが飛んでいる。麦藁帽子と重なって、夏の風景となっている。
今回調べて初めて解ったことだが、田んぼに多いシオカラトンボの雌のことをムギワラトンボというらしい。ところが、田んぼのほとんど無い今の沖縄には、そのムギワラトンボを目にすることは少なくなったということだ。私もたぶんお目にかかっていない。
オオシオカラトンボ(大塩辛蜻蛉)
トンボ科 東アジアから東南アジアまで広く分布する 方言名:アーケージェー
方言名のアーケージェーはトンボの総称。ヤンマトンボのことをダーマー、ウスバキトンボのことをカジフチダーマーとか言うが、すべてひっくるめてアーケージェーで通る。
本土の田園地帯でよく見られるのは大の付かないシオカラトンボ。昔、田んぼが多くあった頃は沖縄でもシオカラトンボが普通に見られたそうだが、田んぼの多くがサトウキビ畑に変わってしまった今ではシオカラトンボが激減し、オオシオカラトンボが増えたとのこと。ちょっとした水溜りでもオオシオカラトンボは繁殖できるらしい。
腹長40ミリ内外。成虫の出現は3月から11月。
雌
交尾
記:ガジ丸 2005.6.27 →沖縄の動物目次
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行