ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

炭焼き

2011年03月28日 | 飲食:飲物・嗜好品

 冬の肴

 もう30年ほども前の話だが、東京に住んでいる頃、私の最初の住まいは家賃1万8千円、6畳一間、台所半畳、トイレ共同、風呂は当然無しの下宿だった。
 住み始めてほどなく、食卓兼、勉強(ほとんどやらなかったが)机兼、マージャン卓兼のコタツを友人に貰ったか、質屋で買って(昔のことなので記憶が曖昧)手に入れた。それがその部屋の唯一の暖房器具であった。その年の冬が来た。寒かった。
 凍え死ぬかもしれないという寒い冬を初めて経験した南方出身の青年は、足を水平方向に折り曲げて、コタツ布団を肩まで掛けて、そこで寝ることも多かった。
 暖房器具としてはそのコタツが唯一であったが、暖房器具の代わりになるものが部屋に一つあった。ガスコンロである。ヤカンに水を入れ、コンロに乗せ、火を点ける。それで部屋が、焼け石に水程度であったが、幾分暖まった。夜、部屋に充満した蒸気が、朝になると窓ガラスで結露して、窓が凍って開かないということが何度もあった。

 温暖化ガス増加のせいなのか、あるいは、たまたま太陽系の運行上による温暖化なのか知らないが、他の地域同様、沖縄も年々気温が上昇している。私が子供の頃は、もっと寒かった。霰が降るなんてこともたまにあった。
  その頃、私の家にはコタツがあり、電気ストーブがあり、石油ストーブがあり、祖父母の部屋には火鉢もあった。それらの暖房器具の中では、火鉢が最も暖房の役に立たないものと子供の私は思った。火鉢は、かざした部分しか暖まらなかったからだ。
 だが、その火鉢、楽しみが別にあった。祖母が餅を焼いてくれたり、祖父がスルメを焼いてくれたりしたのだ。ハフハフしながらそれを食い、少年は幸せであった。

 去年に続いて、沖縄は今年も暖冬である。2月に 入って少々寒くなったが、それでも気象庁が発表する那覇の最低気温が14度台、13度台になったという程度である。まあ、たいした寒さではないのだが、隙間風が吹き込み、外気温とほとんど変わらず、また、有能な暖房器具も無い私の部屋では、火鉢に炭を熾すのに十分な理由となる気温だ。
 火鉢に炭が入った。子供の頃、炭で餅を焼いて、それを食べて幸せになった少年は、何十年という時を経て、別の物を炭焼きして幸せなオジサンとなる。

  火鉢で焼く物は脂分の少ない物が良い。脂が多いと煙が出るからだ。私は主にイカ、タコ、貝類、白身の魚などの他、椎茸やピーマンなどの野菜を焼いている。今年は既にクブシミ(コブシメ)、タラ、マダコ、ホタテ貝柱、椎茸、ピーマン、ジャガイモを焼いて、酒の肴にしている。先週末はクルキンマチ(白身魚)、セーイカが肴になった。
 火鉢に炭、炭焼きで旨い肴、そして旨い酒、こういうのがあるから、私は冬が好きである。もちろん、凍えるほどの寒さが無い沖縄の冬に限定するが。
      
      
      
 記:ガジ丸 2008.2.8 →沖縄の飲食目次