沖縄の煙
6月30日、金曜日の職場でいつものようにガジ丸HPのアップ作業をやる。途中、その日の晩飯を買いに近くのスーパーへ行く。商品をカゴに入れてデジで並んでいると、前に並んでいるオバサンが手に何も持っていないのに気付く。両替でもするのだろうかと思っていたら、そうじゃなく、煙草1ボール(カートンともいう、20本入り煙草が10箱入っている)を買ったのであった。で、私も気付いた。明日から煙草が値上げだ、と。
家の冷蔵庫にキャベツが残っていたので、「キャベツだけでできる八宝菜」(名前は不正確)がその日の晩飯のメイン、他にビール2缶とゴマ菓子1袋が私の買い物、レジの女の子が計算しながらそれらを袋に詰めていく。私はポケットから財布を取り出しながら、
「マイルドセブン1パーセントロングを1ボール下さい」と言う。が、すぐに、
「あっ、いいです。タバコは」と取り消す。私の財布には小銭も含めて2千5百円しか入っていなかった。まあ、たかが30円の違い、10箱でも300円、週に3箱、飲み会のある週は4箱消費する私は、月に4、500円増えるだけだ。大したこと無い。
卒業以来会っていないが、高校の同級生のOは郷土愛の強い男であった。当時我々が好んで吸っていたタバコの銘柄はセブンスターかハイライトであった。沖縄はアメリカのタバコが安く(ヤミタバコと言う)手に入ったので、ケントやウィストンなども好まれていた。であったが、Oは常にハイトーンであった。ハイトーンは沖縄のタバコ。
我々の世代は、いかなる教育のせいか知らないが、生まれ育った郷土である沖縄をバカにする人間が割りと多い。シマーという言葉は「劣ったもの」という意味でバカにした言い方であった。「シマーでも飲むか」は「(しょうがないからというニュアンスで)泡盛でも飲むか」ということになり、「シマー吸っている」は「(ハイライトを買う金がなくてしょうがなくなどといったニュアンスで)沖縄タバコを吸っている」となる。
沖縄民謡はフォークやロックなどより、泡盛は日本酒やウィスキーより、沖縄タバコは日本やアメリカのタバコより、それぞれ下等なものとされていたのである。そんな中で同級生のOはハイトーンを吸っていた。偉い奴なのであった。
琉煙といえば、中年以上の人には懐かしい響きであろう。琉煙はリュウエンと読む。琉球煙草(りゅうきゅうたばこ)株式会社の略。沖縄が本土復帰する前、沖縄は日本専売公社では無く、琉煙がタバコを販売し、また、独自のブランドも持っていた。それがハイトーンであり、ロン、うるま、ヴァイオレットなどであった。このうち、ロンはあまり見ないが、ハイトーン、うるま、ヴァイオレットは今でも普通にスーパーにあるし、自動販売機でも売られている。どれもニコチンが強いので私は吸わないが、沖縄民謡界の大御所、あの登川誠仁はヴァイオレットを愛飲している。
沖縄タバコは強いだけじゃなく、味もイマイチなので、郷土愛は十分持っていても、美味いものの好きな私は沖縄タバコは吸わない。今私が吸っているものは主に日本の煙となっている。オジサンの喉は軟弱なので、ニコチン含有量が最も少ないもの、
別項「アメリカの煙」で、アメリカのタバコの値段が急激に高くなり、今8ドルくらいと書いたが、沖縄のタバコ、復帰直前の値段はハイトーン18セント、ロン15セントであった。日本やアメリカのタバコは25セントくらいではなかったかと覚えている。
今週は禁煙包囲網が狭まる中でのタバコの話を載せているが、今の内こういうことを発表しておかないと、あと数年もすれば「私、タバコ吸ってます」なんて堂々と言えなくなるに違いない。愛煙家にとってはどんどん息苦しい時代になりそうなのである。
記:ガジ丸 2006.8.13 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行