名を知る椰子の実
職場にココヤシの木があって、それに実が付いていた。東南アジアのどこかの国で、子供がココヤシに上って、その実を採って、割って、中の果汁を美味しそうに飲んでいる光景をテレビで何度か見たことがある。私も飲んでみたいと思った。そう思ったのは私だけでは無かった。8月のある日、同僚のSさんが、
「ヤシの実、黄色くなっていますが、採っていいですか?」と訊く。ココヤシは職場にあり、それにできた果実も所有者は社長である。しかしながら、社長は自然に実ったあまり一般的でない果実を口にすることは苦手みたいである。ということで、職場 にできた果実は社員が勝手に採って、食べてもいいことに暗黙の了解ができている。
「あー、採れるなら採ってくれ。無理はしないでね。」とSさんに答える。と、3時の休憩時間に、液体の入ったコップをSさんが私に持ってきてくれた。
「これ、ヤシの果汁です。」と言う。コップには果樹だけで無く氷も入っていたが、その氷を除いたとして約30ミリリットルの量。
「たったこれだけ?」と訊くと。
「いえ、これの倍くらいです。皆で飲みました。」とのこと。色はほぼ無色、水と変わらない。飲んでみ る。甘味は少ないが、爽やかな味だ。どこか覚えのある味。
その時、ヤシの実は2個収穫していて、その内の1個を私が持って帰る。3日後の日曜日にそれを処理する。ココナッツと呼ばれる有用な部分は種子である。愛用の鉈をキャンプ道具をしまってある箱から取り出す。もう何年もキャンプをやっていないので、錆が多くついている。洗って、錆を概ね落として、ココヤシの果実を削る。外皮と果肉(といっても繊維質、食い物にはならない)を少しずつ削っていく。削った破片が飛び散る。「後で掃除が大変 だなあ」と思いつつ、続けて、やっと種子らしきものに辿り着く。
この種子がまた、とても硬い。包丁がまったく立たない。果汁が飛び散らないよう気をつけながら、先っちょの方に「エイッ!」と鉈を振り下ろす。うまい具合に少しだけ割れた。そこから果汁をコップに流し込んで、空になった種子を半分に割る。
種子の内側についている白いものがココナッツミルクの元となるもの。これを包丁とスプーンを使って剥ぎ取る。簡単には剥がれない。少々時間がかかる。
その後、飛び散ったヤシ殻を掃除して、ココヤシ の実の処理は終了。
『沖縄園芸植物大図鑑』によると、「果実の外果皮はなめらかな革質、中果皮は荒い繊維質、内果皮は黒褐色の固い殻」とあり、それはその通りであった。
また、「内果皮に包まれるようにして、白い脂肪層がある。それがコプラという有用成分。コプラはその約6割から7割が脂肪でできており、これから石鹸、マーガリン、ろうそくなどが作られる。」とのこと。ココヤシは、樹液からは糖分が採れ、葉はマット、屋根葺き、かご、果実からは繊維が採れ、固い殻は楽器や器に利用され、果汁は飲めて、脂肪分からは石鹸やろうそくなどが作られる。大変有用な植物である。
果汁は30ミリリットルもあったかどうか、冷蔵庫で冷やして飲んだ。どこか覚えのある味が何だか判った。ポカリスエットなどのスポーツ飲料の味だ。少し甘くて、少ししょっぱい。コプラは、ココナッツミルクにして、タイ風カレーを作った。
記:ガジ丸 2008.8.30 →沖縄の飲食目次