豚の安い部位
スーパーへ行って精肉のコーナーへ行く。牛肉にはロース、フィレ、モモ、バラなどがあり、鶏肉にはササミ、ムネ、モモ、手羽などがある。これらは倭国でも同じ名前で並んでいる。ところが、豚肉となると、和国と同じロース、フィレ、バラの他に、三枚肉、ソーキ、テビチなどといった倭国ではあまり見ない名前が並んでいる。
三枚肉は倭国でも見かけることがあり、その名前からだいたい何物か想像もできよう。ソーキ、テビチは沖縄にちょっと興味のある人なら知っているであろう。だが、沖縄のどのスーパーへ行ってもたいてい置いてあるグーヤーヌジーという名前の豚肉は、沖縄にすごく興味のある倭国人で無ければ、「何?それ。」かもしれない。
倭国人だけでは無い。ウチナーンチュでもそれが何を指すのか分らない人は多い。かく言う私も最近まで知らなかった。何年も前からよく見ているし、よく買っているし、よく食べてもいるのに、それが豚のどの部位なのか知らなかった。
グーヤーヌジー、スーパーではウデ肉とあるが、念のため『沖縄語辞典』を引く。グーヤーヌジーという単語は無くて、グーヤーがあった。「豚の尻の骨と肉」とあった。どうやらウデ肉では無いようだ。ヌは格助詞の「の」で、ジーは「骨の髄」となっている。なので、グーヤーヌジーは「豚の尻の骨と肉の髄」ということになる。肉に髄は無いのでおそらく、「豚の尻の骨と肉とその骨の髄」ということであろう。
しかし、スーパーで売られているグーヤーヌジーは「豚の尻の骨と肉とその骨の髄」からは遠い。スーパーの表示通りのウデ肉の方が見た目納得できる。グーヤーヌジーの表すものが「豚の尻の骨と肉とその骨の髄」から、「豚の尻の肉」だけをも指すようになり、ウデ肉がそれに似ている(かどうか不明)ということから、いつしかウデ肉のこともグーヤヌジーと言うようになったのかもしれない。グーヤーヌジーは脂身が少なくヘルシーな感じがする。値段も安いので、私は汁物、煮物用に時々買っている。
4月のある日、毎年春の楽しみとしているタケノコを食った。皮付き丸ごとのタケノコを買って、糠でちゃんとアク抜きして食った。とても美味しかった。それはさておき、その時の糠が残っていたので、グーヤヌジーの糠包み焼きを作ろうと思いついた。
同じ頃、ガジ丸HPの『沖縄の草木』でバショウを紹介しようと調べていたら、昔、テレビか何かで見た「バショウの葉で豚肉を包んで、それを焚き火の灰の中に突っ込んで蒸し焼きにするという料理」を思い出した。バショウでは無くバナナの葉だったかもしれないが、まあ、両者はほとんど同じようなものである。職場にバショウがある。
タケノコを食ってから1週間後、グーヤーヌジーを買い、職場のバショウの葉を1枚切り取って、家に持ち帰り、グーヤーヌジーを糠で包んで、その上からバショウの葉で包んだ。ダッチオーブンを出すのは面倒だったので、蒸し器で蒸した。
バショウの葉の匂いはほとんど無かったが、米の匂いはした。バショウよりも米糠の方の匂いが強かったということなのだろう。肉に直接触れているのは糠なので、その匂いが強かったのかもしれない。とりあえず、美味しかった。
記:ガジ丸 2008.4.22 →沖縄の飲食目次