10月になっても、晴れた日、昼間の太陽はまだまだ強力。ガンガン照り付けている。人間の体と違ってマジムンの体は外気温に左右されにくい。つまり、我々は暑さ寒さに強い体質となっている。それでも、この太陽の熱さは感じることができる。
「はっさもう、暑いねえ。秋も半ばだというのに。」
散歩の途中、ユクレー屋をちょっと過ぎた辺りで、港の方から二人乗り乳母車を押しながら歩いて来るマナとバッタリ出合った。その時のマナの第一声がそれだった。
「確かに、今年の秋は特別暑いね。」
左手で乳母車を押し、右手で日傘を差している。その傘の下の、マナの顔には汗が滲んでいる。でも全然余裕の顔、そう、陽射しは熱いけれど、風はすっかり秋の風。爽やかな風、美味しい風。ユクレー島は特にそう。マナもそれは感じている。
「でも、この島はやっぱり良いさあ。風が最高なんだね。」とのこと。
「ところで、ずいぶん久しぶりだね。忙しかったの?」
「それはこっちのセリフさあ。私は先月も第一週には里帰りしたよー。あんたがいなかったんだよー、どっか行ってたの?」
「あー、先月はね、ちょっと旅をしていた。でも、そうか、マナは月1回、第一週には帰るようにしてるんだ?」
「うん、月一はね。今日はでも。トリオG3のライブもあるんだよ。」
「ライブ?ユクレー屋で?今日?」
「知らなかったの?旅に出ていたからだね。けどまあ、突然決まったみたいさあ。昨日の夜、家に電話があったよ。新曲ができたからって。」
ということで、その夜、ガジ丸一行もいつもより早くやってきて、ユクレー島運営会議も早めに終わって、トリオG3の、4曲20分ばかりのちょっとしたライブが開かれた。新曲は1曲だけ、残りの3曲は既に発表済みのもの。
新曲のタイトルは『かにはんでぃてぃよー』、沖縄民謡風の唄。カニは曲尺(かねじゃく)のこと、ハンディティヨーは「外れてよ」ということ。頭の中の計りがずれてしまっているということ。つまり、「ボケてしまってよー」という意味。
演奏が終わって、「寂しくて、ちょっと暖かい唄だね。」と感想を述べる。
「最近、ユクレー屋にちょくちょく顔を見せる初老の夫婦がいるだろ。」と勝さん。
「前田さん夫婦のことだね。」
「俺たちは三人とも女房がいなかったり、死なれたり、逃げられたりして、歳取ってからの夫婦愛というものを知らないんだ。あの夫婦を見ていて、仲良いなあ、羨ましいなあなんて話していたら、ガジ丸がそれを唄にしてくれたんだ。」
「歳取っても愛し合っていようよ、なんて唄なんだ。」と今度はガジ丸に訊く。
「それはちょっと違うな。長い年月を経ると、もう雄とか雌とか関係の無い愛情に変わる。その人の生命そのものに恋をする、その人のことが純粋に愛おしくなるんじゃないかと思ってな。まあ、良くは知らないんだが、想像だ。」
「ふむ、確かに、前田さん夫婦を見ていると、何だかそんな雰囲気あるね。」
「生まれて、生きて、恋して、死ぬ。空に空がある限り、それは繰り返される。生きることは恋をすること、と言ってもいいだろうな。空に空がある限り、人は恋をする。」
などと、珍しくガジ丸が恋を語った。マナが大きく肯いていた。
記:ゑんちゅ小僧 2009.10.2 →音楽(かにはんでぃてぃよー)