ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版057 夜はこれからだけど

2008年05月02日 | ユクレー瓦版

 金曜日の夕方、ユイ姉が島に来ているというので、いつもより早めにユクレー屋に顔を出した。ユイ姉は若い頃、ユクレー島にいたことがある。もう25年ほども前の話だ。久しぶりの来島である。私も彼女と会うのは久々である。
 
 ユイ姉は、カウンターにケダマンと並んで座っていた。彼女の隣に私は座って、
 「今日着いたの?」と訊いた。
 「うん、昨日、ジラースーの家に着いて、一晩泊めてもらって、今日、ジラースーの船に乗せてもらったさぁ。普通の方法ではジラースーの船以外、この島に来る方法は無いもんね。あとは、ガジ丸に連れて来て貰うって普通じゃない方法もあるけどね。」
 「他にもあるよ。ケダマンの背中に乗るって方法が。」
 「あー、そうなの。」とユイ姉はケダマンの方を向いた。
 「おー、俺ならひとっ飛びだ。日帰りも可能だぜ。」
 「そうなんだ。なら、もっと早く来れば良かったさぁ。」
 「そういえば、一ヶ月くらい前にジラースーとマナの結婚を祝福するパーティーがあったんだよ。それは知らなかったの?」
 「ううん、だいぶ前に、結婚することになったって、マナから電話があってさ、そのパーティーのことも聞かされて、招待もされたんだけどさ、手の離せない仕事や用事が重なってさ、残念ながら、パーティーには参加できなかったのさ。一ヶ月も遅れたけど、やっと、来ることができて、さっき、オメデトのハグをしたさぁ。」

 我々がそんな話をしている間、マナはその中に参加しなかった。マナは台所にいる。ジラースーもそこにいる。このところ毎週金曜日はそうなっているが、今日もまたジラースーとマナは台所で仲良く料理をしている。仲良く料理というけれど、実際は、ジラースーが釣ってきた魚を持ってきて、そのおろし方、刺身の盛り付け方、また、煮魚や焼き魚などの料理法をマナに教えているみたいである。

 外が薄暗くなった頃、ジラースーの料理教室もやっと終わったようで、料理が何皿か出され、マナはカウンターの中に立ち、ジラースーはカウンターの私達のところに来て、並んで座った。夫婦と認められてからはジラースーも前みたいに照れたりしない。仲良く料理している時も平然としているが、「マナ、ビールくれ。」と注文するときも堂々とマナの顔を見て、堂々と声をかける。ひょっとしたら、ジラースーは、同情から結婚したのでは無く、本気でマナのことが好きなのかもしれないと思ってしまう。
 ジラースーはオキナワに住んでいる。たまには街にも出る。で、年に1、2回はユイ姉とも会っている。なので、我々よりもユイ姉とは親しい。その親しさから、娘ほども歳の離れたマナとの結婚について、ユイ姉はひどくからかったようだ。しかし、
 「何かねぇ、あまりからかい甲斐が無いのよ、このオジサン。そのての話は苦手だったと思うんだけどね、性格が変わったみたいに、何言われても平然としてるのよ。」とのことであった。好きな女がいるというのが、男の自信となっているのかもしれない。

 しばらくして、村の人たちも何人か飲みにやって来た。勝さん、新さん、太郎さんはユイ姉を知っている。賑やかに挨拶を交わす。我々も昔話に花を咲かす。そんな中、ジラースーとマナが見詰め合っている瞬間にたびたび気付く。ケダマンもそれを感じて、
 「なっ、気色悪いだろ?」と囁く。確かに、恋する若者たちが見詰め合うほど美しくは無いが、しかし、私には気色悪いものとは感じられない。それなりに美しい。ただ、二人の間に漂っている桃色の空気が、少々熱さを感じて、ちょっと鬱陶しい。
 「あんたたちねぇ、他人の恋路を邪魔するもんじゃないよー。気色悪いなんて言ったら駄目よー。マナは愛されているのさぁ。羨ましいさぁ、私は。」とユイ姉が囁く。どうやら、ユイ姉もジラースーが本気で恋しているのを感じているみたいだ。
 隣に桃色の空気を感じながら2時間余り経った。星がちらほらと出だし、夜の暗さとなってからガジ丸がやってきた。ガジ丸はこれからだが、我々は既に熱い気分。

  「あのさぁ、私の元亭主のクガ兄が作った唄にね、『夜はこれからだけど』ってのがあったよ。あっ、タイトルは『フロームホットボックス』だったな。歌い出しが『夜はこれからだけど』だ。それね、熱い気分に悩まされるって唄なんだ。」とユイ姉は言って、ピアノを弾いて、その唄を歌ってくれた。楽しい唄で、すぐに覚えられた。
 ユイ姉がピアノを弾き、ガジ丸、ケダマン、私の3人で踊りながら歌った。唄は、「夜はこれからだけど」を繰り返していたが、我々の夜はこれからだった。その後、大いに盛り上がって、みんながいろんな唄を歌い。賑やかに夜は更けていった。
      

 記:ゑんちゅ小僧 2008.5.2 →音楽(From Hot Box)


野生の力

2008年05月02日 | 通信-環境・自然

 4月の中頃の明け方、ネコの唸り声に目が覚めた。声はごく近い。二匹いて代わる代わる唸っている。ケンカしているみたいである。声はしだいに大きくなっていく。その大きさから、ごく近いの”近い”は1メートルほどの距離だと感じられた。
 カーテンを開けて外を見る。ベランダの塀の上に、腹側が白でその他が黒のネコが立っていた。確かに彼は、私の頭から1メートル先の距離にいた。彼の目の前、正面の1メートル先には別のネコがいる。玄関の傍の物置の上で時々昼寝している奴だ。ふてぶてしい面構えと体つきをしているトラネコだ。両者睨み合って、唸り合っている。

 煩いので、白黒ネコをベランダから追い出すことにする。で、ベッドから起きる。ちょうどその時、唸り声が怒鳴り声に変わり、ガタガタと音がし、ガリガリと金網を引っ掻く音がした。トラと白黒は金網越しに殴り合いをしているみたいであった。
 白黒ネコはその時初めて見たので、たぶん、流れ者のネコだと思われる。トラネコは以前からこの辺にいる。今は私の部屋の周りを棲家にしている。
 「おー、兄ちゃん、どこから流れてきたか知らねぇが、ここは俺の縄張りだ。勝手に入ってきちゃあ困るぜ。出ていきな。」
 「どこで何しようと俺の勝手だ。お前の指図は受けねぇ。」
 「何だとー!コノヤロウ!」となって、ケンカなのだろう。しかし、他人のベランダに勝手に入ってきて、朝っぱらからケンカするなんて、何て奴らだ!と私は思う。

  好きな人もいるかもしれないが、私は猫の糞が大嫌いである。ベランダに糞をされる(過去に2度ある)と、そのあまりの臭さに、飯が不味くなった。で、ベランダにネコが入ってこないように木枠を設置し、全面に網を張ってある。さらに、木枠の上部にネコが上らぬよう、ベランダの塀の上をネコが通らぬようにそれぞれ金網も張ってある。
 そこまで念入りに防御しているのは、14年に渡る私とネコとの戦いの歴史から学んだ上でのことだ。ネコは概ねチャレンジャーである。入りにくいところに入りたがる。困難を前にして逃げることを潔しとしない性格を持っている。さらに、ネコは体がすごく柔らかい。ごく僅かな隙間からも出入りできる能力を持っている。そういったことを、14年の戦いから私は学んできた。ということで、金網なのであった。
          

  そんな完璧な防御をしている木枠の内側にネコがいる。トラネコは木枠の外側だが、白黒ネコはこちら側である。「おめぇは忍者か?あるいは超能力者か?」と呟きつつ、そのネコを追い出した。どこから逃げるのか興味があったのだが、ネコは「前門の虎、後門の狼」となって窮したのか、塀の上から1階へ飛び降りた。4メートルの高さがある。大丈夫か?と一瞬思ったが、「エーイッ、ネコに情けは無用」と思い直す。
 その日の夕方、仕事から帰ってすぐにベランダの防御を見直す。トラネコと白黒ネコがにらみ合っていた間に金網がある。その金網の上部に7、8センチほどの隙間がある。まさか金網をよじ登って、尖った針金の痛みを堪えてまで、と思ったが、他には出入りできそうな箇所は無い。「そうまでしてやるか」と、私は野生の力に感心してしまった。
          

 記:2008.4.22 ガジ丸
 →音(ネコのケンカ「Neko080420.mp3」をダウンロード