週末の夕方なんだけど、ユクレー屋にマナがいない。マナの代わりにマミナがカウンターにいる。マナとジラースーは昨日から一泊の新婚旅行とのことだ。
「海の上で、波に揺られて、あんなことこんなことしてるんだろうな。」とケダマンが得意の妄想を働かす。下品な妄想になりそうだったので遮る。
「満天の星空の下で愛を語り合ってるさ。」
「そうだねぇ、そうだろうねぇ、ロマンチックだねぇ。」(マミナ)
「お前ら二人とも、何上品ぶってんだ。まあ、星空の下で、は認めよう。その可能性は高い。今日は天気も良いし、風も温かいからな。がよ、愛を語り合ってるのはほんのちょっとだぜ。あとは抱き抱きして、チューチューして、服を脱いで・・・、」(ケダ)
「いいよもう、妄想はそこまでで、あんまり見たくないし。」(私)
「まあな、マナはともかく、ジラースーのケツなんて見てしまったら、酒が不味くなって、食欲も落ちそうだもんな。このへんにしておくか。」と、ケダマンは言って、形になりかけていた自らの妄想映像を掻き消した。すると、
「あんたたちさあ、そんなに長く生きていてさあ、愛というものをそんな捉え方しかできないのねぇ?情けないねぇ。」と、マミナが呆れたような顔をして言う。
「なんだそりゃあ、男と女が愛するってことは、キンタマと子宮が互いを欲しがっているってことだろうが、違うか?」(ケダ)
「まあ、そりゃあね、生物としてはそうかもしれないけど。そこに、互いを思うっていう心が生まれるのさ。その心が美しいのさぁ。」
「ふん、ふん、ふん。解るよ、何となくだけど。」(私)
「それにね、愛し合っている二人なら、その抱き合っている姿も、キスする姿も美しいのさ。欲望を満たすためだけのセックスは下品に見えるけど、純粋に互いの子孫を残したいという愛に溢れたセックスはね、傍から見てもきれいなものなのさ。」
「なるほど、そういうものでござるか。ところで、マミナはそんな美しい恋愛をしてきたのか?死んだ亭主はそうとうグータラだったと聞いてるが。」と言うケダマンの問いには答えず、マミナはグラスを1個取って、それに酒を注ぎ、
「今夜は少し飲もうかね。」と、グラスに口をつけた。そして、
「何か食べる?ちょっと待ってね。今作るから。」と言って台所に立った。
マナも料理は上手い方であったが、マミナはさらに上手い。特にウフオバー直伝のオキナワ料理は完璧である。手際もいい、ので、すぐに戻ってきて、一皿出した。
「はい、チャンプルー。私の名前のチャンプルー。」
「あぁ、マーミナチャンプルーだね。」と私。ちなみに、ウチナーグチ(沖縄口)を知らない人のために、マーミナは豆菜と書いて、モヤシのこと。チャンプルーは「野菜、豆腐、肉などを混ぜて炒める料理」という意味。マーミナチャンプルーの場合、モヤシが野菜となる。
「私の恋愛もチャンプルーさぁ。愛に溢れたものもあったけどね。好きでもない男と成り行きでとか、口の上手い男に騙されてとか、自ら進んで好きでもない男と寝て、欲望を満たしたなんてこともあったねぇ。でもね、美しいだけが人生じゃないのさ。醜いこともいろいろごちゃ混ぜになってるのさ。人生はチャンプルーさぁ。チャンプルーだからこそ味もあるってわけさぁ。振り返れば、みな懐かしい思い出だよ。」とマナは言って、グラスを口にし、グビグビと飲んだ。グラスの中身は日本酒だが、酒豪のマミナは一升くらいは平気である。この夜はマミナの昔話を肴に、我々も日本酒に付き合った。
記:ゑんちゅ小僧 2008.4.18