先週末、いつものようにケダマンと並んでユクレー屋で飲んでいると、マナが、
「ねぇ、この時期になるとさ、オキナワでは海開きなんてやってるけど、ユクレー島ではそんな行事無いの?」と思い出したように言った。
「海開きって、海はいつでも開いてるよ。」(ゑんちゅ)
「じゃなくてさ。今日から海で泳いでいいよ、って日よ。」
「じゃあってさ。ここの海はいつでも泳いでいいってことだよ。」(ゑんちゅ)
「海水浴の季節が来たよって日があるんだよ、オキナワには。」
「海水温の関係だろ。泳げる温度かどうかは個人の感性に拠るだろ。そんなの、役所が決めることじゃないだろ。個人に任せればいいんだ。」(ケダマン)
「水温はその年によって違うからさ、泳げる温度かどうかじゃないのさ。初めに日を決めて、その日に向けて浜を掃除して、海水浴の季節になったぞーって日なのさ。」
「役所が泳いでいい季節だよって言わないと、泳いでいいかどうか判らなくなっているのか、今時のウチナーンチュは?」(ケダ)
「分らない人、いや、マジムンだねぇ。儀式なのさ。だから、掃除もするのさ。」
「あー、なるほど、掃除をしなくちゃあ泳げない海なんだ。」(ケダ)
「そういうわけでも無いけどさ。まあ、ちょっとは必要だね。・・・あー、そういわれれば、この島の海や浜はいつでもきれいだね。」
「あー、そういえば、オキナワの海は、海の中も泥やゴミが溜まっているが、浜はだいぶ汚れているよな。ゴミが散らかってるよな。」(ケダ)
「そうなんだよ。だから掃除が必要なんだよ。あっ、だからさ、何でここの海はいつもきれいなの?いつも村の誰かが掃除してるの?」
「まあ、先ず、汚す人がいないからだろ。」(ケダ)
「うん、それも確かにあるけど、村の人が汚さなくたって、ゴミは海から流れてくるから、放っておくとユクレー島の浜も汚くなってしまう。」(ゑんちゅ)
「あー、じゃあ、やっぱり村の誰かが掃除してるんだ。」
「そ、」と私が言いかけたら、ケダマンが横から口を出した。
「あっ、思い出した。俺知ってるぜ。博士の発明したロボットがあったんだ。確か、ソウジマンって名前だった。実物は見たこと無いが、昔、博士から話は聞いた。浜辺を掃除するロボットだ。ちゃんとゴミの分別もしてくれる優れモンらしいぞ。」
「あー、そうなんだ。そのロボットが密かに掃除してるわけね。」
ソウジマンについては、私もだいぶ前に博士から話を聞いている。室内を大掃除する大掃除機スップルの発明よりもずっと旧い発明品である。ソウジマンは室内で無く、浜辺を専門に掃除するロボット。ケダマンの言う通りちゃんとゴミの分別もしてくれる。分別は生ゴミ、燃えるゴミ、プラスチック類、金属類、ガラス類などを認識するらしい。そこまで聞くと、確かに優れモンである。その時の博士も自慢げに語っていた。
「これ一台あれば、この島の浜はいつでもきれいだ。太陽電池で動き、分別してくれるので環境にも良い。浜がきれいになって、環境に良くて、私は私のノウジマン(脳自慢)ができる。掃除機は三文の得ってわけだ。ハッ、ハッ、ハッ」と高笑いした。
「博士、掃除機は三文の得って、正直は三文の得のシャレですか?でも、それ違いますよ。早起きは三文の得ですよ。」と私が真面目に言うと、
「あー、そうだったっけか。まあ、そう細かいこと言いなさんな。」とまた笑う。
ところが、その後、このソウジマンが島の浜辺で活躍しているのを私は見なかったし、そんな噂も聞かなかった。後になって、村の人に話を聞いたところ、
「あー、あれ。あれはダメですよ。物の分別はちゃんとやるんですが、その物がゴミなのかそうでないのかを分別することができないですね。浜辺に置いてある必要なもの、例えば、海水浴や釣で使う道具、ボートを繋ぎとめる杭なんかも、ゴミと一緒にしてしまうんですね。我々はバカ掃除機と呼んでましたよ。」
元々、ユクレー島の浜辺は、汚す人がいないし、村の人たちがいつもきれいにしているから、ソウジマンの必要もあまり無かったみたいである。数日後には、博士にソウジマンの撤去を村人たちが要請したとのことである。
掃除機もバカ正直だと、損をする、ことになるのであった。
記:ゑんちゅ小僧 2007.4.3