ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版013 釣り日和

2007年04月06日 | ユクレー瓦版

 私、ゑんちゅ小僧は、マジムン(魔物)になる前はネズミであった。ネズミであったので、本質的には夜行性である。夜行性ではあるが、マジムンとなってからは昼間も動き回るようになった。島の瓦版には島の行事や、島人の情報も載せている。その取材のためには昼間の行動も必要となり、今では珍しい昼行性マジムンとなってしまっている。
 私以外のマジムンたちは概ね夜行性である。昼間の明るいうちにモク魔王やハルに会ったことは無い。ガジ丸とも滅多に無い。ケダマンはいつもユクレー屋でゴロゴロしているので、昼間もよく目にする。シバイサー博士は、彼には時間はあって無いようなもので、昼とか夜とかの概念もあって無いようなものなので、自分がそうしたいと思う時が、もっともそれに適した時間のようなので、昼でも夜でも動いている。会える機会は多い。
 そんなシバイサー博士は昼間、のんびりと釣りをしていることがよくある。釣りしながら寝ていることもあるが、たいていは釣りをしながら酒を飲んでいる。釣った魚をそのまま酒の肴にしたりしている。生きた魚を頭からガジガジ齧って、ご満悦している。

 秋の、良く晴れた、風の涼しい日に、博士の研究所を訪ねた。何ヶ月か前の『良雲悪雲』の失敗以来、博士はずっとスランプが続いているようだが、もうそろそろ立ち直って、新しい発明をしているんではないかと思ってのことであった。
 研究所に博士は不在であった。不在の場合はたいてい海岸で酒飲んでいるか、寝ているかであるが、今日のような気候の場合は釣りをしている可能性が高い。風が涼しく。陽射しが柔らかく、波が穏やかな日は、釣り日和というわけである。
     

  研究所の前には浜辺が広がっているが、そこから左手の方は釣りに適した岩場になっている。そこへ向かう。私の予想はピッタリ的中。ただ、博士の隣にもう一人釣りをしている者がいた。近寄るまでも無く、そのシルエットで判る。ガジ丸だ。ガジ丸が釣りをすることはたまにあるってことは聞いている。博士と一緒のこともあったわけだ。
 「やあ、いい天気ですね。二人でのんびりと釣りですか。」
 「おう」と博士。
 「おう、釣りっていうか、糸を垂らしているだけだ。今日はさっぱりだ。」とガジ丸。
 「気候がいいからな。魚も昼寝してるんだろうよ。」と博士。
 「いいですねえ。時間がいっぱいあるって感じですね。こうやって、二人で釣りすることもよくあるんですか?」
 「うん、たまーにあるよ。こうやってのんびり釣り糸を垂らしながら、ガジ丸の苦労話を聞くのは私の好物なんだな。だから、たまに誘っているんだよ。」

  ガジ丸は正義の味方では無いが、人類の味方ではある。人類の平均が正義であるなどとはちっとも思っていないので、絶対そうだというわけでは無く、「どちらかというと」ということである。モク魔王は人類の滅亡を望む立場にいるが、それもまた人類の絶滅を望んでいるわけでは無い。できれば、平和な地球になって欲しいと願っているのだが、そのためには「ノアの箱舟」みたいなことが必要だと考えているだけである。
 というわけで、ガジ丸とモク魔王は相対立する間柄にあり、仲が悪い。仲は悪いが同じ島に住んでいる。で、たまには顔を合わすこともある。であるが、二人が直接引掻き合うなんてことは無い。モク魔王は人類滅亡のための画策をし、ガジ丸がそれを阻止するという戦いが、見えないところで日夜繰り広げられているのである。

 のんびりと釣り糸を垂らしながら、ガジ丸がそれとなく話す戦いの近況を、シバイサー博士がなにげに聞くということがたまにはあるらしのである。ガジ丸とモク魔王の戦いについては、私はあまり把握していない。ちょっと次元の違う話なのである。後日、博士に訊いたところ、最近は、ガジ丸にとってはどんどん不利な状況になっているとのこと。
     

 語り:ゑんちゅ小僧 2006.9.19


瓦版012 洞窟の番人

2007年04月06日 | ユクレー瓦版

 ジラースーの本業はウミンチュ(漁師)であるが、ガジ丸に依頼されて、ユクレー島で生産された物資をオキナワへ運んで換金し、その金でユクレー島に住む人々の欲するものを購入し、それらを島へ運ぶという仕事も定期的にやっている。
  物資を移出する場合も、移入する場合もたいていはジラースーの船からユクレー屋に運ばれ、島の主だった人々が取りに来て、村で人々に分けられる。余分に仕入れられたものはユクレー屋で保管され、人々が必要になった時に供される。
 物資が保管される場所はユクレー屋の他にもう一箇所ある。万が一、島への物資移入が滞った時の予備の倉庫である。シバイサー博士の研究所からほど近い海岸の、海側からしか出入り口の無い洞窟がその倉庫となっている。そこは、秘密の場所というわけでもなく、立ち入り禁止にしているわけでもないが、ジラースー以外の人間はほとんど出入りしない。ガジ丸以外のマジムン(魔物)もほとんど出入りしない。
 洞窟には番人がいる。大きな蝦蟇(がま、ヒキガエルのこと)の化け物で、つまり、ガジ丸やモク魔王らと同じマジムンの一人である。名前をデンジハガマと言う。自ら特殊な電磁波を発生し、それを操ることができるところからその名がある。別名ヨミガエルとも言う。洞窟の中はデンジハガマが操る電磁波によって、離れた時空が重なり合うことがあって、あの世とこの世の繋ぎ場所にもなったりする。そこから黄泉という名が付いた。
 シバイサー博士とデンジハガマの付き合いは古い。博士がユクレー島を形にする際に、それまで、あちらこちらに電磁波の悪影響を与えながら地上をブラブラしていたデンジハガマを島へ誘ったのである。嫌われ者になっていたデンジハガマに安住の地を与えるためであり、離れた時空を旅する際にデンジハガマの力を借りるためであった。
     

 ある日、博士の研究所を訪ねたら、博士が言った。
  「さっき、デンジ(博士は略してこう呼ぶ)が海岸を歩いていたぞ。滅多に無いことだから、会って、インタビューしたらどうだ。何か面白い話が聞けるかもしれないぞ。」
 「ほう、そうですか。それは本当に珍しいですね。私もここに長くいますが、彼を見たのは過去に2度しかありません。それも洞窟の中でですから、外に出ているデンジハガマを見るのは初めてですよ。外に出ることは無いと思っていましたよ。」と私は言って、さっそく、海岸へ向かった。口の重いデンジハガマなので、話が聞けるという可能性はあまり期待できないが、少なくとも彼の姿をカメラに収めることはできるであろう。
 海岸に着くと、洞窟のすぐ傍の岩の上にデンジハガマが座っていた。何か考えているのか、ボーっと海を眺めていた。近寄って、声を掛けた。
 「やー、珍しいですね。外に出るなんて。」と言うと、こっちを振り向いた。
 「あーん、あんた、誰だっけ?」
 「ゑんちゅ小僧って言います。島の瓦版の記者をやっています。ちょっと話を聞かせてもらってもいいですか?」
 「話するのは嫌いだ。この数秒で、もううんざりしている。」
 「すみません、でも、ちょっと、一つだけ。外に出たのはどうしてですか?」
 「うー、面倒臭いなあ。たまには出ることもあるんだよ。虫干しだ。もうお終いだ。これ以上話しかけるな。黙っているんだったら、傍にいることは構わないが。」
 ということで、インタビューは終わり。もう一つお願いして、写真を撮らせて貰った。「煩いなあー」と言いつつ、彼は立ってポーズを取ってくれた。
     

 語り:ゑんちゅ小僧 2006.9.10


瓦版011 ユクレー島の夏祭り

2007年04月06日 | ユクレー瓦版

 ユクレー島の祭りは年に4回、春夏秋冬のそれぞれにある。島ができて人々が住むようになって、集落と呼べるような人口になった頃、島人の代表者たちがウフオバーに相談しにやってきた。「祭りをやりたいんだけど、いいかねぇ」とのこと。
 「うん、そうだねぇ、祭りもあるといいねぇ。でも、この島には神も仏もいないからねぇ。神社もお寺も教会もないからねぇ。何の祭りにするかねぇ。」
 「作物の収穫祭とか、海産物への感謝祭とかではだめですかねぇ。」
 「そうだねぇ。ガジ丸かシバイサー博士に相談してみるさあ。」
ということで後日、オバーと博士が相談して決まった祭りは年4回、秋の収穫祭、冬の星祭り、春の花祭り、そして、夏の海祭り。
 海祭りは夏の最も暑い8月上旬に行われる。それが先週であった。場所は島人が海水浴に使う浜辺。子供のいる家族は子供たちを海で遊ばせ、夕方から島人が集まり、新鮮な海の幸を食べ、飲んで、歌って、踊っての賑やかな祭りとなる。
 浜辺には小さなステージが設けられ、芸達者な人たちはそこで芸を披露する。今回は新しい出し物があった。ユーナとマミナ先生が漫才をしたのである。二人は初めコントをやるつもりだったらしいが、稽古が間に合わず、結局、しゃべりだけの漫才となった。
     

  「ユーナでーす。」、「マミナでーす。」、「二人合わせてナーナでーす。」
 「私たちはコンビだけど、みんなも知っている通り、私は先生で、」
 「私は生徒です。この日のためのにかわ作りのコンビでーす。」
 「にかわじゃなくて、にわかでしょ。」
 「いいじゃないどっちでも、似たようなもんだし。」 
 「違うわよ、あんた。にわかとにかわは全然違うよ。にわかったらにわか雨って言うように突然て意味でしょ。にかわってあんた何か知っているねー。」
 「にかわ?・・・川が二つってこと?」
 「ハッサミヨーこの子はもう、あんたの先生の顔が見てみたいさー。」
 「私の先生はあんたさー。鏡持ってくる?」
 「だったね。そうか、先生は悪く無いけど、生徒の出来が悪いんだねー。」
 「何言っている!・・・先生さあ、時々間違ったこと教えてるんだよ。」
  「間違ったこと?私が?なに?どんなことよ?」
 「この間教えてくれたウンコジシンって、あれ嘘でしょ?」
 「ウンコジシン?何それ、そんなこと教えた覚えはないよ。」
 「はっさ、道端のウンコにも意思があって、私はウンコですって思ってるんだって先生言ったじゃない。私はイヌノですとかネコノですとか思ってるって。」
 「あーはいはい、それね。それはユーナ、私が温故知新って言ったのをあんたがウンコジシンって聞き間違えるからさあ。冗談を言っただけよ。」
 「ウフオバーに大笑いされたんだよー、まったく。」
 「オンコチシンはね、フルキヲアタタメ、アタラシキヲシルと訓読みするの。」
 「古い木を暖め、新しい木の汁???何のことだかさっぱりわかんない。」
 「そうそう、古い木でも、暖めたら樹液が新しくなって若返るの。私みたいなオバサンでも恋をして、心が温まれば若返るということの喩えよ。」
 「へー、そうなんだ。・・・あっ、それもまた嘘なんでしょう。」
 「嘘じゃないの、冗談なの。あんたが聞き間違えるから悪いの。」
     

 こういった内容の喋りがもう少し続いた。私には良いできのものとは思えなかったが、島人たちにはまあまあ受けていた。二人が島人たちに愛されているからであろう。ユーナ自身はやはり不満だったようで、終わった後、「秋こそはコントで勝負だ!」と息巻いていた。マミナ先生は、もうコリゴリといった顔をしていた。秋、どうなるやら。

 語り:ゑんちゅ小僧 2006.8.14


瓦版010_2 チャントセントビーチの唄

2007年04月06日 | ユクレー瓦版

恋に疲れたなら 涙捨てにおいで
白い浜広がる チャントセントビーチへ
辛いことはみな 波に流してしまおう
泣いてるだけじゃ 明日(あした)は見えない

010_2utaugaji 風が強くても 波が高くても
闇が深くても 時は流れる
今、陽が沈み 夜が更けていき
やがて朝が来る チャントセント

戦いに疲れたなら 風に吹かれにおいで
ヤシの木陰優しい チャントセントビーチへ
悔しいことはみな 空に流してしまおう
傷を抱いてばかりじゃ 明日は見えない

風が強くても 波が高くても
闇が深くても 時は流れる
今、陽が沈み 夜が更けていき
やがて朝が来る チャントセント

悲しみに疲れたなら 笑顔拾いにおいで
夕凪静かな チャントセントビーチへ
忘れたいことはみな 海に流してしまおう
うつむいたままじゃ 明日は見えない

風が強くても 波が高くても
闇が深くても 時は流れる
今、陽が沈み 夜が更けていき
やがて朝が来る チャントセント

「tyantosento.mid」をダウンロード

記:ゑんちゅ小僧 2006.8.9 →今週の画像2


瓦版010_1 ビーチの夜は更けて

2007年04月06日 | ユクレー瓦版

 先週の続き
 ジーラースーの大ダコとの格闘も終わって、そのタコを焼きながら、他の魚も焼きながらビーチパーティーは、飲んで食って、唄って踊って、大いに盛り上がった。
     

  チャントセントビーチはサンセットビーチである。つまり、夕日が沈むのを見ることができる浜辺である。博士お得意の駄洒落による命名なのである。役に立たない発明ばっかりやっている自分を戒めるための「ちゃんとせんと」では無い。世界で最もちゃんとしているのは自分だと博士は思っているのだ。世界中のちゃんとしていない人々のためにこのビーチを開放してやろうとの、博士の優しさから出た名前なのである。
 で、チャントセントビーチでのサンセットを眺め、その後は、満天の星空を眺め、飲んで、食って、十分楽しんで、夜11時にはウフオバー、マミナ先生、ユーナ、そして、チシャ君もその夜はウフオバーの家に泊めてもらうことになって、帰った。残るはオジサンたちだけとなった。そして、夜はまだまだこれからなのであった。

 ジラースーがサンシン持って、沖縄民謡を唄う。彼はサンシンも歌も上手である。私は楽器は扱えないが、歌は唄える。ジラースーと合唱する。博士も私と一緒。ケダマンは、人間だった頃ギターが弾けたらしいが、今は腕が短くなったせいでギターが持てなくなってしまっている。ガジ丸はサンシンも弾け、ギターも上手い。今日はウクレレを持ってきている。その夜ガジ丸はウクレレを奏で、ガジ丸作詞作曲の歌を唄ってくれた。最近作ったというその歌の名は、その名も『チャントセントビーチ』という。
 沖縄民謡のテイストが幾分入った切なげな曲調とまともな歌詞から、初めは、「ガジ丸にしては真面目な歌だなあ」と思ったのだが、さすがガジ丸である。博士の駄洒落を深く理解していた。さびの部分の歌詞はちゃんとコミックソングになっていた。
     

 記:ゑんちゅ小僧 2006.8.6 →チャントセントビーチの唄