礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

備仲臣道氏評『曼荼羅国神不敬事件の真相』

2015-02-28 05:23:54 | コラムと名言

◎備仲臣道氏評『曼荼羅国神不敬事件の真相』

 昨年夏以来、校訂・注釈をおこなってきた翻刻本がようやく完成し、先週末、その見本刷りが送られてきた。小笠原日堂著『曼荼羅国神不敬事件の真相』。初版は、一九四九年一一月五日、無上道出版部から刊行されている(非売品)。
 今月二四日以降、日ごろお世話になっている方々に宛てて送呈しているところだが、二六日、早くもメールで書評が送られてきた。作家の備仲臣道〈ビンナカ・シゲミチ〉さんからの書評である。
 本日はこれを紹介させていただこう。

 小笠原日堂著『曼荼羅国神不敬事件の真相』の感想 備仲臣道
 小笠原日堂著『曼荼羅国神不敬事件の真相』は、一九四九(昭和二十四)年に出た同じタイトルの本(無上道出版部)の翻刻版であるが、この二月二十五日に批評社から刊行されたばかりである。注記と解題を礫川全次さんが担当しておられる。
 この本で扱われている不敬事件というのは、戦時中の一九四一(昭和十六)年四月十一日、日蓮門下の旧本門法華宗の幹部六名が逮捕された「日蓮宗門七〇〇年未曾有の宗教弾圧事件」であり、戦時中のために一般には知られてこなかった事件である。そうして、「昭和法難の血涙史」というこの本の著者は、逮捕された幹部の一人で、京都妙蓮寺常住院の僧だった人である。
 この事件は一審では有罪判決を受けながらも、二審では検察側の論拠を突き崩して無罪を勝ち取り、敗戦直後の一九四五(昭和二十)年十月に免訴となっている。事件の発端は神官である徳重三郎による告発であった。日蓮の曼荼羅の中に天照太神、八幡大菩薩が掲げられているが、それがお題目の下に記してあるのは、国神を侮辱する不敬であるというのが徳重の主張で、その根拠とするところは一八六八(明治元)年の太政官令であった。だが、著者によれば、この太政官令は一八八四(明治十七)年の教導職廃止に伴って消滅したものだという。徳重による神戸裁判所への訴えは却下されたけれど、それに激昂した徳重は「速かに日蓮曼荼羅を禁止すべし」という印刷物を、政府要人、軍部、裁判所・検事局や両院へ配布して、世論を煽った。下世話な言い方をすれば、これは言いがかりというものであって、一昔前の暴力事件の新聞記事に「些細なことに因縁をつけ」という常套文句があったが、それに等しいと言っていいのではなかろうか。
 だが、しかし、それが些細なことでは済まなくなったのである。前にも書いたように一九四一年四月十一日、検事総長の命により同日早朝を期して、東京、大阪、京都などで一斉に、本門法華宗の幹部が逮捕・拘束されたからである。彼らは四畳半に十数人という過密な牢獄の中に、一年以上にわたって拘束されながらも、国家権力と四つに組んで対等に闘った。尋問中に検察官をやり込めたエピソードなどは、冒険小説を読む以上に痛快である。
 解題の文中で礫川さんはこの本を「昭和史・戦中史を研究する上で、この上なく重要な文献である。いわば、隠れた名著である」と書いており、さらに「無罪判決を勝ち取るまでに、関係者が払った、文字通り生命を賭しての努力を綴った箇所は、まさに本書のハイライトであり、もっとも読みごたえのある部分である」としている。
 では、過去の事件を書いたこの本が、今日翻刻された意味はどこにあるのだろうか。礫川さんは、近年の政治的・社会的動向を見ると、かつての「昭和法難」と同様な事態が、いつ再現されてもおかしくない──と書いて、「平成法難」の可能性を指摘している。
 以下は私の独断であるが、憲法の勝手な解釈変更による戦争国家化を頂点とする、いまの強権的独裁政権によって、政治状況は国民の意思を無視したまま右へ右へと旋回している。その許で重税や非正規労働者の増加、福祉の削減にあえぐ日本民衆は、自由を奪われようとしており、こんな暗い状況下に、本書に学ばねばならないところは大きいと思うのである。(批評社 A5版182ページ、2200円・税別)

*今月二五日、二六日、当ブログへのアクセスが急増しました。おそらくこれは、NHKが、二五日(水)の夜一〇時から放映した「歴史秘話ヒストリア」の影響と思われます。私は、この番組を見ていませんが、「妻が見た2・26事件」、「鈴木貫太郎と終戦」といったテーマが扱われたもようです。この番組を見た視聴者が、パソコンで、「鈴木貫太郎 2・26事件」などと検索し、当ブログの記事「鈴木貫太郎を蘇生させた夫人のセイキ術」「憲兵はなぜ渡辺錠太郎教育総監を守らなかったのか」「かつてない悪条件の戦争をなぜ始めたか(鈴木貫太郎)」などをご覧になったということでしょう。なお、以下に、「礫川ブログへのアクセス・ベスト20」を示します。これはあくまで、アクセスの多かった「日」のランキングであって、記事は、「その日の記事」を示しているに過ぎません。

礫川ブログへのアクセス・歴代ベスト20   2015・2・28現在

1位 14年7月18日 古事記真福寺本の上巻は四十四丁        
2位 15年2月25日 映画『虎の尾を踏む男達』(1945)と東京裁判 
3位 15年2月26日 『虎の尾を踏む男達』は、敗戦直後に着想された
4位 13年4月29日 かつてない悪条件の戦争をなぜ始めたか     
5位 13年2月26日 新書判でない岩波新書『日本精神と平和国家』 
6位 14年1月20日 エンソ・オドミ・シロムク・チンカラ     
7位 13年8月15日 野口英世伝とそれに関わるキーワード     
8位 13年8月1日  麻生財務相のいう「ナチス憲法」とは何か   
9位 15年2月20日 原田実氏の『江戸しぐさの正体』を読んで
10位 13年2月27日 覚醒して苦しむ理性             

11位 15年2月27日 エノケンは、義経・弁慶に追いつけたのか 
12位 14年7月19日 古事記真福寺本の中巻は五十丁        
13位 15年1月8日  伊藤昭久さん、田村治芳さん、松岡正剛さん
14位 14年8月15日 煩を厭ひてすべてはしるさず(滝沢馬琴)   
15位 14年2月1日  敗戦と火工廠多摩火薬製造所「勤労学徒退廠式」         
16位 15年2月4日  岩波新書『ナンセン伝』1950年版の謎
17位 15年1月14日 このブログの人気記事(2015・1・14)
18位 14年3月28日 相馬ケ原弾拾い射殺事件          
19位 14年1月21日 今や日本は国家存亡の重大岐路にある        
20位 15年2月19日 「日本われぼめ症候群」について

*このブログの人気記事 2015・2・28

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