礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

内外硝子戸残らず並厚上等硝子板にて……

2019-05-31 03:23:42 | コラムと名言

◎内外硝子戸残らず並厚上等硝子板にて……

 神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その五回目。すでに、「建具方並錠前蝶類」のところまで紹介している。本日は、それに続く「左官の部」、「ペンキ方ノ部」、「経師屋の部」、「硝子屋の部」を紹介する。

  左官方の部
一使用物品の内粉灰〈こはい〉、角又【ツノマタ】、布海苔【フノリ】類はなるべく年月を経て能くかれたる品砂は塩気【シホキ】并に土気なき品荒木田土〈あらきだつち〉は草木の根又は芥抔【アクタナド】混しさる品「セメント」は極上等品使用可致事且工事取懸【トリカヽ】り前一品毎〈ごと〉に見本品建築掛りへ差出し検査請け置き始終【シシウ】共見本品に劣らざる物品使用可致事
【六項目分、中略】
一火筒〈ひづつ〉四本共屋根際【ヤネギハ】は前条木摺添喰【シツクイ】へ魚灯油〈ぎょとうゆ〉三升づゝ煉りかへ極丁寧に雨洩【アマモリ】無之様三返塗り仕上けに塗立可申事
一大梯段【ハシゴダン】裏木摺壁【キスリカベ】は天井蛇腹【ジヤバラ】同様の漆喰にて入念四返塗り仕上に可致事
  ペンキ方ノ部
一使用ペンキ類ボイル油等ハ使用前一々建築係の検査相受け都て上等品使用可致候事
【四項目分、中略】
一入口枠台【ワクダイ】槻板【ケヤキイタ】は残らす目止め色付けの上々等蠟塗込み塗り可致候事
一外側軒廻【ニキマワ】り厚鉄板【アツテツイタ】樋【トヒ】は下地錆止【サビトメ】塗り致し有之候上青石色ペンキ弐返塗致し最後のペンキ塗致し候後直ちに建築掛より相渡し可申青石粉外廻りへ充分ふり掛け置き乾【カハ】き後荒縄【アラナハ】にて差図【サシヅ】の通りコスリ可申事
  経師屋の部
一階上階下其天井総体反古【ホグ】細川紙にて骨縛り張致し仝上白半紙二返袋張り致し仕上け白西洋紙にて都合四返張り仕上け蛇腹際【ジヤバラギハ】格別入念四分一〈しぶいち〉なしに張付け可致事
  硝子屋の部
一内外硝子戸【ガラスド】残らず並厚上等硝子板にて淡【アハ】火ブクレ焼色付き其他見くるしき疵無之品相撰【エラビ】裏はて共付け鱗釘【ウロコクギ】充分に用ひ舶来上等はてにて丁寧丈夫には付【ツケ】致し跡【アト】奇麗に掃除磨【ミガキ】可致事【以下、次回】

「硝子屋の部」に「はて」という言葉が、二度、出てくるが、文脈からして、「パテputty」のことであろう。

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使用カナ物は舶来上等ナマ鉄あい撰み……

2019-05-30 01:09:54 | コラムと名言

◎使用カナ物は舶来上等ナマ鉄あい撰み……

 神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その四回目。すでに、「瓦方の部」のところまで紹介している。本日は、それに続く「鉄物方の部」、「建具方並錠前蝶類」を紹介する。

  鉄物方の部
一都て使用鉄物【カナモノ】は舶来上等ナマ鉄相撰み相用可申事〈あいもちいもうすべきこと〉
一小屋組立用鉄物大小「ボート」大小平物大小三ツ股平物其他惣目方百五拾貫目の割にして夫々〈それぞれ〉図面指揮の寸法格好に念入【ネンイレ】出来コールタ塗の上大工方へ相渡し可申候且「ボート」座頭【ザガシラ】は格別念入出来致し万一取付け等の欠け損し等出来候節は他用鉄物同様何ケ度も手直し又は引換方可致事
【このあとの五項目、略】
  建具方並錠前蝶番【テフツガヒ】類
一使用木材は充分木枯らし致したる品にて抜節【ヌキフシ】死節【シニフシ】破目【カレメ】等有害の疵無之物撰み使用可致事
一左記仕様中に有之候木材寸法は別段挽立寸法と記載有之候分の外は都て仕上げ寸法と相心得可申事
一使用錠前【ジヤウマヘ】用の螺釘【ネジクギ】並に蝶番【テフツガヒ】類真鍮【シンチウ】物に相用ひ候螺鋲【ネジビヨウ】は真鍮鋲と相心得可申事且つ真鍮物は都て上鑢【ヤスリ】仕上け上にする塗仕上け物と心得候事
【このあとの三項目、略、以下、次回】

「鉄物方の部」の第一項にある「ナマ鉄」は、「なまがね」と読むのか。だとすれば、「鍛えていない鉄」の意。同第二項にある「ボート」は、文脈から判断すると、「ボルトbolt」のことであろう。

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木材は大節・死節・破れ・疵・腐等これなき品あい撰み……

2019-05-29 05:55:31 | コラムと名言

◎木材は大節・死節・破れ・疵・腐等これなき品あい撰み……

 神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その三回目。昨日は、「鳶人足並に土方の部」、および「煉化職之部」を紹介した。本日は、それに続く「石工の部」、「大工の部」、「瓦方の部」を紹介する。

  石工の部
一外廻り根石入口石階段四ケ所裏口并に左右入口の間三ケ所の石処用石材は当方に於て下拵〈したごしらえ〉の上相渡し可申候得共〈そうらえども〉其他左右并に裏入口庇請【ヒサシウ】け石正面入口上陸家根【やね】手摺【てすり】台石仝〈ドウ〉笠石正面上飾甍【カザリイラカ】柱台并代笠石仝上飾石仝甍笠石仝中央飾石及ひ火焚所前灰止石は請負人に於て豆州沢田上等青石(石質中に金色粉なき分)持出し下拵の上据【スエ】付方可致〈イタスベク〉其他二階梁請ケ〈はりうけ〉枕石は梁の両端煉化へ積込元に一個宛相州堅石請負人より持出し下拵致し据付【スエツ】け可致候事
都て〈すべて〉石打据付方は石重ね肌并煉化へ積込肌は奇麗に掃除水湿【スイシツ】致し候上充分「モルタル」飼堅【カヒカタ】め竪目地【タテメチ】へは酌【クミ】とろ充分に酌込み見あらはし面【ツラ】奇麗に水掃除可致事
【このあとの八項目、略】
  大工の部
一使用木材は杉松檜【ヒノキ】槻【けやき】共深川木場堀にて充分木渋抜【シブヌ】け致したる物の内大節死節破【わ】れ疵【キズ】腐【クサリ】等都て有害の疵無之〈これなき〉品相撰み仕上注文の寸法に相成様〈あいなるよう〉挽立【ヒキタ】て十分に木枯【キガラ】し致したる上使用可致事
【このあとの十八項目、略】
  瓦方の部
一使用瓦は古切込桟瓦相渡し候間〈そうろうあいだ〉請負人に於て丁寧に掃除致し候上〈そうろううえ〉使用可致候事
【このあとの二項目、略、以下、次回】

「豆州沢田上等青石」(ずしゅうさわだじょうとうあおいし)というのは、伊豆半島で採取され、一般に、伊豆石(いずいし)と呼ばれている石材のひとつと思われる。「相州堅石」(そうしゅうかたいし)というのは、かつて、真鶴半島で採取されていた石材。

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使用煉化石は生焼物・疵物・反り物等を除き……

2019-05-28 01:37:35 | コラムと名言

◎使用煉化石は生焼物・疵物・反り物等を除き……

 神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その二回目。昨日、紹介した部分のあと、以下のように続く。

  ○鳶人足【トビニンソク】並に土方【ドカタ】の部
一建築場所奇麗掃除地均【ヂナラ】し致し工事執行差支無之様〈さしつかえこれなきよう〉適当の建坪【タテツボ】有之候〈これありそうそう〉諸職工の下小屋【シタゴヤ】取設可申事〈とりもうけもうすべきこと〉
一煉化積【レングワヅミ】大工左官方其他諸職工に入用〈いりよう〉之足代【アジロ】大丈夫に取建【トリタテ】可申候事〈もうすべくそうそうこと〉
一大工方其他諸職工に入用の手伝【テツダヘ】人足十分手当を可致候事〈いたすべくそうそうこと〉
一煉化積用其他入用の節は用水多量に消費可致〈いたすべく〉且当場所井戸は殊の外〈ことのほか〉深井【フカヰド】に候間〈そうろうあいだ〉指支【サシツカヘ】無之様〈これなきよう〉別段水汲【ミヅクミ】人足使用【シイヨウ】可致候事
【このあとの八項目、略】
  煉化職之部
一使用煉化石は都【スベ】て生焼【ナマヤキ】物疵【キヅ】物反【ソ】り物等を除き上等品相撰【エラ】み床下【ユカシタ】の分は焼過【ヤキスギ】物地上外面遣【ヅカ】ひの分は色揃磨上【イロソロヘミガキアゲ】々花物間内壁遣ひの分は並上のもの使用致し化粧筋【ケシヤウスヂ】用黒色煉化石窓台用煉化石【レングワセキ】梯上窓化粧持出し筋用煉化石軒蛇腹〈のきじゃばら〉用平大物煉化石等は別段に上等品製造致し使用可致候事
一使用モルタルは左記調合【テフガフ】機械煉【ネリ】又は手煉り物にて充分混和したるものを毎日使用分宛煉合せ使用可致候事
【この項目、後略】
一使用「セメント」は其の時に見本品指出【サシダ】し建築掛〈がかり〉の検査を経て許可の品相用可申事〈あいもちいもうすべきこと〉且「セメント」は三時間以内使用の分丈け〈だけ〉つつ煉り合せ其余は一時に煉置くへからす
【このあとの六項目、略、以下、次回】

 このように、各部にわたって、詳細な「注文仕様」が記されている。
 文中、「々花」とあるところは難読。たぶん「あがりはな」(上花)と読むのだと思う。そのほかの箇所も、難読なところに限って、ルビが施されていない。

*このブログの人気記事 2019・5・28(8位に珍しいものが入っています)

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慶應義塾講堂新築工事仕様書(1886年7月)

2019-05-27 00:34:46 | コラムと名言

◎慶應義塾講堂新築工事仕様書(1886年7月)

 昨日、紹介した資料の中に、「神作浜吉」という人名が出てきた。どういう人物か気になったので、インターネットで調べてみた。国立国会図書館のデータで、生没年はわかったが(一八六六~一九三八)、「読み」が判明しなかった。
 神作浜吉には、多数の著書があり、そのうちの『まつり』(宝文館、一九三一)は、だいぶ前に一度、手に取った記憶がある。
 一八九四年(明治二七)に博文館から出た『日本工業用文』という本は、今回、初めて閲覧したが(インターネット上で)、情報量が多く、興味深かった。中に、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」の全文が掲載されていた。その末尾には「明治十九年七月」(一八八六年七月)とある。本日は、この冒頭部分を紹介してみよう。

 左に記載する仕様書は過る十九年中故工学士藤本寿吉氏が慶應義塾の依頼に応じ同塾新築講堂を設計するに当り起草せし者にて当今に於ける仕様書の好摸範なり
   東京芝区三田二丁目二番地慶應義塾講堂新築
  仕 様 注 文 簿
一 二階建煉化家屋 軒高地上ヨリ三十三尺七寸五分/総建坪平屋共百三拾九坪九合五勺二才
  附て
 火筒  四焚口                     四ケ所
 唐戸付
イ印 表入口欄間附両開     高九尺九寸/巾六尺    壱ケ所
 唐戸付
ロ印 裏入口欄間ナシ両開    高六尺巾五/尺      壱ケ所
 唐戸付
ハ印 両側入口欄間附キ両開   高十尺一寸/五分巾五尺  弐ケ所
 腰硝子戸付
ニ印 中仕切口欄間附キ両開   高九尺巾六/尺      壱ケ所
 腰硝子戸付
ホ印 中仕切口欄間附キ両開   高九尺巾六/尺      弐ケ所
 腰硝子戸付
ヘ印 中仕切口欄間なし両開   高九尺/巾六尺      壱ケ所
 上ケ卸硝子戸付
ト印 梯下外側窓        高六尺八寸/巾三尺  三十二ケ所
 上ケ卸硝子戸付
チ印 同間内窓         高六尺八寸/巾三尺五寸  壱ケ所
 上ケ卸硝子戸付
リ印 梯上外側窓        高七尺三寸/巾三尺五寸 三十ケ所
 上ケ卸硝子戸付
ヌ印 同裏側大形窓       高七尺五寸/巾四尺九寸  壱ケ所
 開き腰硝子戸付
ル印 同外側出口窓       高十尺〇五寸/巾四尺九寸 壱ケ所
 唐戸付
ヲ印 間内入口欄間附片開片開  高九尺/巾三尺五寸   拾八ケ所
 唐戸付
ワ印 間内入口欄間附両開    高九尺/巾四尺五寸    六ケ所
 腰附硝子戸付
カ印 間内入口欄間附両開    高九尺/巾五尺      壱ケ所
 槻造梯段 段巾登桁内法五尺/
      踏面巾壱尺壱寸五寸 段数二十五段       壱ケ所
 檜造附ケ腰掛         長六尺/巾一尺五寸    壱ケ所
 梯上天井改め口        内法二尺五寸角      壱ケ所
 屋根上裏側出口 高尺巾二尺空気抜戸付/
         小屋内踏道とも出来           壱ケ所
 漆喰塗出前揃 丸形焚釜灰止め青石とも          弐ケ所
 同柵計り 大焚釜なし灰止石有              六ケ所
 同花形中真飾 梯上大広間                弐ケ所
 ランプツリ鉄蛭釻中真飾なし               六ケ所
 左右及裏入口上庇太さ格好図面の通り           三ケ所
 正面甍空気抜 カラリ戸口                三ケ所
右煉化家二階建新築工事執行【シツカウ】に付注文仕様左の通り【以下、次回】

「煉化」は原文のまま。「煉瓦(れんが)」のことであろう。「火筒」は、ここでは「ひづつ」と読み、ボイラーの意味。カ印「槻造梯段」の「踏面巾壱尺壱寸五寸」は、「踏面巾壱尺壱寸五分」の誤記または誤植であろう。「槻造」の読みは「けやきづくり」、「梯段」の読みは、たぶん「はしごだん」。「踏面」の読みは、「ふみづら」。同じくカ印「ランプツリ蛭釻」の「蛭釻」読みは、たぶん「ひるかん」。

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