おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

スリー・ビルボード

2022-10-01 09:05:21 | 映画
「スリー・ビルボード」 2017年 イギリス/アメリカ


監督 マーティン・マクドナー
出演 フランシス・マクドーマンド  ウディ・ハレルソン
   サム・ロックウェル  アビー・コーニッシュ
   ジョン・ホークス  ピーター・ディンクレイジ
   ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ  サンディ・マーティン

ストーリー
アメリカ、ミズーリ州の田舎町エビング。
ある日、寂れた道路脇に立つ3枚の立て看板に、地元警察への辛辣な抗議メッセージが出現する。
設置したのは、7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッド。
7ヵ月たっても一向に進展しない捜査に業を煮やして掲げたものだった。
名指しされた署長のウィロビーは困惑しながらも冷静に理解を得ようとする一方、部下のディクソン巡査はミルドレッドへの怒りを露わにする。
署長を敬愛する部下や町の人々に脅されても、ミルドレッドは一歩も引かない。
その日を境に、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かっていく・・・。


寸評
娘を無残なレイプ殺人事件で失った母親が犯人逮捕を望みながら、犯人検挙に至らない警察に業を煮やし過激な行動を起こすことが事件の発端だが、この物語は単純なサスペンスではない。
サスペンスかと思わせておいて、見事なヒューマン・ドラマへと昇華する力強さは最近の外国映画の中では出色の出来栄えだ。
人物描写が素晴らしく、登場人物がどこかに欠点を持ち、ある意味で実に人間らしい。
殺された娘は純情可憐な少女で同情を買うような存在でなく、その家庭も平和で幸せなものだったとは言えない。
母親ミルドレッドは口も態度も悪く、時には法にも触れるような過激な行動を繰り返す。
警察署長ウィロビーは知的で温和な人物で町の人々から慕われているが、すい臓がんを患っていて余命いくばくもないことに弱さを見せる。
ディクソン巡査は、暴力的な差別主義者な上にマザコンときているから、この男が完全に悪役なのだが単純にそうはなっていない。
善悪だけでキャラクターを分別できるほど単純ではないのだ。
人は多面性を持っているので、ある一面だけを捕らえて評価できないという事だろう。

ミルドレッドが進展しない捜査にいら立ちを見せる気持ちはよくわかる。
僕は拉致被害者の家族もこれに似た感情を抱いているのではないかとダブらせていた。
それにしてもミルドレッドのキャラは凄すぎる。
娘を守れなかった後悔と自分への怒りや孤独を人や組織へぶつけまくる。
この人物の描写だけで十分に映画は成り立つと思わせる。
そこに人種差別、権力の乱用、家庭崩壊、偏見、イジメなどが覆いかぶさって社会批判を感じさせるが、カジを切ってそちらの方向へまい進していくという作風ではない。
犯人探しにも興味が行くが、僕たちはこの作品が犯人探しが目的ではないことも知る。

人は何故こんなにも憎しみあってしまうのか。
夫婦の関係においてもそうだし、レイプ殺人に同情していた町の人たちもミルドレッドへの怒りを露わにしだす。
差別主義者は差別の対象者へ暴力を向ける。
憎しみは違法行為を助長する。
観客を引き付ける画面の中で、正に社会の縮図が展開されている。
それを救うのが、相手を受け入れる寛容さであり、相手を許すいたわりの気持ちだ。
ウィロビーの遺書であり、ディクソンの行為であり、ミルドレッドを支持する人々の存在だ。
ラストへの展開もスゴイし、あそこで終わるのも観客に想像を強要していていい。
僕は衝撃で館内の照明が完全に戻るまで立ち上がれなかった。
ここ数年の中では出色の作品だったと思う。


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