「霧の中の風景」 1988年 ギリシャ / フランス
監督 テオ・アンゲロプロス
出演 ミカリス・ゼーナ
タニア・パライオログウ
ストラトス・ジョルジョグロウ
エヴァ・コタマニドゥ
ヴァシリス・コロヴォス
ストーリー
11歳の少女ヴーラと5歳の弟アレクサンドロスは、ドイツにいる父に会いに行きたい気持ちを持ちながら、列車に乗る勇気はなかったのだが、ある日ついにふたりは列車に飛び乗った。
切符がない2人はデッキで身を寄せて眠り、そしてヴーラは父に向けて話しかけるのだった。
無賃乗車を車掌にみつかった2人は途中の駅で降ろされ、ヴーラは駅長に伯父さんに会うのだ、と答える。
伯父の勤める工場のコントロール・ルームで警官に、「ふたりは私生児で父はいない」と語る伯父の話を立ち聞きしたヴーラはショックをうける。
そして警察署に連れていかれたふたりはそこから逃げ出し、夜行列車に乗り込み、旅を続けるのだった。
山道で、ふたりはオレステスという旅芸人一座の青年の運転するトラックに乗せてもらい、町はずれの広場にやって来る。
その夜、2人はオレステスから霧がかかったように白いだけで何も写っていないフィルムの切れはしをもらう。
雨のハイウェイで2人はトラックの運転手の車に乗せてもらうが、翌朝アレクサンドロスが眠っている間にヴーラは運転手に犯される。
ふたりの乗った列車に警官たちが乗り込んできて、逃げた工場で二人はオレステスに再会する。
ふたりはオレステスのオートバイで海岸を走り、テサロニキ駅にたどりつくと夜の列車に乗ることにした。
徴兵され軍に入るオレステスは、オートバイを売るためひとりの青年と出て行き、残されたふたりは追いかけてきたオレステスを振り切り、夜のハイウェイを歩く。
寸評
姉のヴーラと弟のアレクサンドロスは12歳と5歳の姉弟で、母親はいるが映画では登場せず、父親の存在自体は謎に包まれている。
何度も駅を訪れていた姉弟だが、ある日とうとう「乗っちゃった!」 と列車に飛び乗り 嬉しそうに抱き合う。
家出してきたのだと分かるが、母親が心配する姿などは描かれない。
二人は保護された警察を抜け出すが、部屋の外にいたおばさんが「首に縄を巻いた」と恐ろしい言葉をつぶやく。
謎めいてきて二人が外の飛び出すと、全ての人が降ってくる雪を眺めて上を見上げている。
時間が止まってしまったかのように誰もが固まっている中を、生き生きと走り出すのは2人だけで、もう誰も姉弟を止めることはできないと告げている。
この映像は詩的で美しく非常に印象に残るシーンである。
結婚式場から逃げ出してきた花嫁が出てきて、死にかけた馬が引きずられてくる。
連れ戻された花嫁が皆に祝福されて楽し気に出てくる。
何が何だか分からないが、幼い2人が旅をすることによって様々な経験を積んでいくという事なのだろう。
僕にとって、これは旅を通じた子供たちの成長物語なのだと匂わされたシーンである。
二人はオレステスという旅芸人の男の車に乗せてもらうが、このオレステスは重要な人物となる。
途中でヴーラが疲れて寝ている間にアレクサンドロスは一人である店に入りサンドイッチを注文する。
店長が「お金はもっているのか」と聞くと、アレクサンドロス「お金はないが。お腹がすいた」 と何度も答える。
店長は「食うには金がいる、なかったら稼ぐんだ」と仕事を命じる。
幼い弟も、働くことで食べ物が手に入ると理解するので、やはりこれは成長物語なのだと思わされる。
オレステスと対比するようにトラック運転手が登場し、幼いヴーラが残酷な目に合う。
それをワンカットで撮っているのだが、直接的シーンがないにもかかわらず凄みを感じさせるものとなっている。
運転手の男がヴーラに来いと強引に迫り、ヴーラはドアから出て逃げる。
寝ている弟が映る後ろで彼女が男に捕まってしまうのが見え、そしてトラックの荷台に連れ込まれてしまう。
映像はそのままで荷台のシートが映され、その奥で何が行われているかを想像させる。
寝ていたアレクサンドロスが姉のいないことに気づき「ヴーラ!」と叫び姉を探しに走り去ると、男がやっと荷台から出てくる。
ここまで全景をずっと映していたカメラはここでヴーラの悲痛な姿に寄り添っていくと衝撃的なシーンが現れる。
姉弟は喜びも楽しみも、苦しみも悲しみも、それが人生だとすべてを経験しなければいけないのだ。
そしてヴ―ラはオレステスが言う新しいものを発見する。
それは人を愛する気持ちだったのだが、それも事実を知って哀しい別れとなる。
ドイツに着いた彼らは霧の中にネガフィルムの中にあったあの一本の木を発見する。
絵画のような映像が徐々に動き出し、姉弟はその木に寄り添う。
木は父親の象徴だが、姉弟はどうなったのか。
ドイツに行く前に渡った川で「止まれ!」と叫ばれ、霧の中に銃声が響いた。
撃たれたが弾は当たらず父に巡り合えたのか、それとも小舟の上で撃たれて死んでしまい、あれは彼らの夢を描いていたのだろうか、どちらにしても、木はまるで父親のようにやさしく姉弟を包み込んでいた。
監督 テオ・アンゲロプロス
出演 ミカリス・ゼーナ
タニア・パライオログウ
ストラトス・ジョルジョグロウ
エヴァ・コタマニドゥ
ヴァシリス・コロヴォス
ストーリー
11歳の少女ヴーラと5歳の弟アレクサンドロスは、ドイツにいる父に会いに行きたい気持ちを持ちながら、列車に乗る勇気はなかったのだが、ある日ついにふたりは列車に飛び乗った。
切符がない2人はデッキで身を寄せて眠り、そしてヴーラは父に向けて話しかけるのだった。
無賃乗車を車掌にみつかった2人は途中の駅で降ろされ、ヴーラは駅長に伯父さんに会うのだ、と答える。
伯父の勤める工場のコントロール・ルームで警官に、「ふたりは私生児で父はいない」と語る伯父の話を立ち聞きしたヴーラはショックをうける。
そして警察署に連れていかれたふたりはそこから逃げ出し、夜行列車に乗り込み、旅を続けるのだった。
山道で、ふたりはオレステスという旅芸人一座の青年の運転するトラックに乗せてもらい、町はずれの広場にやって来る。
その夜、2人はオレステスから霧がかかったように白いだけで何も写っていないフィルムの切れはしをもらう。
雨のハイウェイで2人はトラックの運転手の車に乗せてもらうが、翌朝アレクサンドロスが眠っている間にヴーラは運転手に犯される。
ふたりの乗った列車に警官たちが乗り込んできて、逃げた工場で二人はオレステスに再会する。
ふたりはオレステスのオートバイで海岸を走り、テサロニキ駅にたどりつくと夜の列車に乗ることにした。
徴兵され軍に入るオレステスは、オートバイを売るためひとりの青年と出て行き、残されたふたりは追いかけてきたオレステスを振り切り、夜のハイウェイを歩く。
寸評
姉のヴーラと弟のアレクサンドロスは12歳と5歳の姉弟で、母親はいるが映画では登場せず、父親の存在自体は謎に包まれている。
何度も駅を訪れていた姉弟だが、ある日とうとう「乗っちゃった!」 と列車に飛び乗り 嬉しそうに抱き合う。
家出してきたのだと分かるが、母親が心配する姿などは描かれない。
二人は保護された警察を抜け出すが、部屋の外にいたおばさんが「首に縄を巻いた」と恐ろしい言葉をつぶやく。
謎めいてきて二人が外の飛び出すと、全ての人が降ってくる雪を眺めて上を見上げている。
時間が止まってしまったかのように誰もが固まっている中を、生き生きと走り出すのは2人だけで、もう誰も姉弟を止めることはできないと告げている。
この映像は詩的で美しく非常に印象に残るシーンである。
結婚式場から逃げ出してきた花嫁が出てきて、死にかけた馬が引きずられてくる。
連れ戻された花嫁が皆に祝福されて楽し気に出てくる。
何が何だか分からないが、幼い2人が旅をすることによって様々な経験を積んでいくという事なのだろう。
僕にとって、これは旅を通じた子供たちの成長物語なのだと匂わされたシーンである。
二人はオレステスという旅芸人の男の車に乗せてもらうが、このオレステスは重要な人物となる。
途中でヴーラが疲れて寝ている間にアレクサンドロスは一人である店に入りサンドイッチを注文する。
店長が「お金はもっているのか」と聞くと、アレクサンドロス「お金はないが。お腹がすいた」 と何度も答える。
店長は「食うには金がいる、なかったら稼ぐんだ」と仕事を命じる。
幼い弟も、働くことで食べ物が手に入ると理解するので、やはりこれは成長物語なのだと思わされる。
オレステスと対比するようにトラック運転手が登場し、幼いヴーラが残酷な目に合う。
それをワンカットで撮っているのだが、直接的シーンがないにもかかわらず凄みを感じさせるものとなっている。
運転手の男がヴーラに来いと強引に迫り、ヴーラはドアから出て逃げる。
寝ている弟が映る後ろで彼女が男に捕まってしまうのが見え、そしてトラックの荷台に連れ込まれてしまう。
映像はそのままで荷台のシートが映され、その奥で何が行われているかを想像させる。
寝ていたアレクサンドロスが姉のいないことに気づき「ヴーラ!」と叫び姉を探しに走り去ると、男がやっと荷台から出てくる。
ここまで全景をずっと映していたカメラはここでヴーラの悲痛な姿に寄り添っていくと衝撃的なシーンが現れる。
姉弟は喜びも楽しみも、苦しみも悲しみも、それが人生だとすべてを経験しなければいけないのだ。
そしてヴ―ラはオレステスが言う新しいものを発見する。
それは人を愛する気持ちだったのだが、それも事実を知って哀しい別れとなる。
ドイツに着いた彼らは霧の中にネガフィルムの中にあったあの一本の木を発見する。
絵画のような映像が徐々に動き出し、姉弟はその木に寄り添う。
木は父親の象徴だが、姉弟はどうなったのか。
ドイツに行く前に渡った川で「止まれ!」と叫ばれ、霧の中に銃声が響いた。
撃たれたが弾は当たらず父に巡り合えたのか、それとも小舟の上で撃たれて死んでしまい、あれは彼らの夢を描いていたのだろうか、どちらにしても、木はまるで父親のようにやさしく姉弟を包み込んでいた。
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