おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

遠すぎた橋

2021-07-05 08:27:00 | 映画
「遠すぎた橋」 1977年 イギリス / フランス


監督 リチャード・アッテンボロー
出演 ダーク・ボガード
   ショーン・コネリー
   マイケル・ケイン
   ジーン・ハックマン
   エリオット・グールド
   アンソニー・ホプキンス

ストーリー
1944年9月5日。連合軍のノルマンディ上陸作戦から3ヵ月後、ドイツ軍はオランダよりの撤退を開始した。
9月10日、ロンドンのブラウニング中将(ダーク・ボガード)の司令室に、連合軍司令官達が集まった。
オランダのアーンエム付近に、空からのマーケット、陸からのガーデン両作戦を遂行し、ネーデル・ライン河からベルリンへ進撃路を開くための大作戦だ。
アメリカ陸軍准将ギャビン(ライアン・オニール)のアメリカ第82空挺師団は中央高地へ、アーカート少将(ショーン・コネリー)のイギリス第1空挺師団は橋へ、ポーランドのソサボフスキー少将(ジーン・ハックマン)の師団はアーカートと共に作戦を、と命令が下ったが、ソサボフスキーは、アーンエムの地形の悪さに難色を示した。
そのころ、ドイツ司令部はビットリッヒ中将(マクシミリアン・シェル)の第2SS機甲軍団に撤退を命じた。
この兵力を偵察したイギリス情報部は、作戦の危険を説いたが、ブラウニングは黙殺する。
一方、ベルギーのレオポルズブールでは、ガーデン作戦総司令官のイギリスのホロックス中将(エドワード・フォックス)が、バンドルール中佐(マイケル・ケイン)の近衛機甲師団に進撃を命じた。
9月17日、快晴の日曜日。マーケット・ガーデン作戦が決行された。
輸送機の大編隊が空をおおい、ドイツ軍の砲撃の中、パラシュートが無数に花開く。
ソン橋近くに降下したスタウト大佐(エリオット・グールド)の隊は、ドイツ軍に橋を爆破され、進路をたたれる。
一方、アーカートは、同師団のフロスト中佐(アンソニー・ホプキンス)と連絡をとるべくジープを走らせたが、砲弾の中に孤立し、作戦開始後2日目の19日には第2次輸送隊が濃霧のためイギリス出発不可能となる。
一方、アイントホーフェンの町にバンドルールとスタウトの部隊が合流した。
そして、少し北ではドーハン軍曹(ジェームズ・カーン)が、瀕死の上司をジープで運んでいた。
暗くなった頃、スタウトは、今はないソン橋の近くに橋を仮設するが、進撃は36時間の遅れだ。


寸評
ノルマンディ上陸作戦以上の犠牲者を出したと言われる連合軍のマーケット・ガーデン作戦の全貌を描いているのだが、ヨーロッパ戦線に詳しくない僕は地理的状況もよくわかっていないし、土地の名前を聞いても馴染みのないもので進軍状況がよくわからなかった。
エピソードは盛りだくさんだが、それが独立しているように思え、大作戦としての統一感がなく串刺しのみたらし団子のような印象を受けるのは惜しい。
個々に見れば圧倒的な物量による映像は感動的である。
ドイツ軍も羨ましい限りだとつぶやくほどの編隊で空挺部隊が飛び立っていき、ものすごい数の落下傘兵が飛び降りてくるシーンは臨場感があり壮観である。

どこの世界にも優秀な部下と愚かな上司っているものだが、本作でも連合軍、ドイツ軍ともにそのような人物が登場する。
そんな場合優秀さにおける序列では物事が実行されず、地位の上下関係で決せられるのは平時の会社組織と何ら変わらない。
おまけに連合軍においては、パットンとモンゴメリーの権力争いがあり、アイゼンハワーに対するモンゴメリーの対抗意識などがあり、ヨーロッパ戦線を複雑化していたようだ。
ブラウニング中将も情報部がもたらした戦車の写真を黙殺してしまっている。
「起こってほしくないことは起きない」と考えてしまうことや、物事を自分の都合の良いように解釈してしまうことはよくあることで、ブラウニング中将も同様の間違いを起こす。
ジーン・ハックマンのソサボフスキー少将が言うように、「現場の意見を聞かない上層部の誤った判断で死ぬのは部下だ」という悲劇が描かれ、第二次大戦で勝利したはずの連合軍の惨敗が描かれている珍しい作品だ。

各地での激戦が描かれるが、最大の激戦地は目的の橋であるアーンエムの攻防戦だ。
待ち構えているのは、意に反しているはずのないドイツの精鋭機甲部隊。
強力戦車で町ごと破戒にかかるマクシミリアン・シェルのビットリッヒ中将に対し、フロスト中佐率いる連合軍空挺部隊は小火器と対戦車兵器PIATだけで戦いを挑まざるを得ず苦戦は否めない。
フロスト中佐のアンソニー・ホプキンスは主演賞候補の常連となった今と違ってタフで勇敢な男を熱演している。
本来は自分たちに届くはずだった投下物資のチョコレートをイギリス製だとビットリッヒ中将から差し出されるシーンは印象的だ。
戦線では民間人も犠牲になるし、屋敷も摂取され破壊される。
戦争は兵士はもとより、民間人も犠牲にしていく。
安全なのは後方で指揮する上層部だけで、「作戦は90%成功だった、ただあの橋は少し遠すぎたな」などと他人ごとのように言うモンゴメリー、ブラウニングに腹立たしさを覚えた。

ただ敗戦の悲劇を徹底的に描いているわけでもなく、戦いの勇壮さを描く娯楽作としては少し物足りずという印象で、その分ものすごく印象に残る戦争巨編とはなっていない。
驚くような物量でもって描いていただけに惜しい。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「遠すぎた橋」について (風早真希)
2023-06-22 07:53:50
この映画「遠すぎた橋」は、組織のトップの考えにより、翻弄される人間の命の尊さを戦争映画で描いた作品ですね。

1977年の映画「遠すぎた橋」は、当時のアブコ・エンバシー映画社の社長で72歳のジョセフ・E・レビンが、その職を辞して私財を投げ打って、この映画に90億円の巨額な製作費を投じて、乾坤一擲の勝負を賭けた戦争映画の超大作ですね。

「史上最大の作戦」で有名なコーネリアス・ライアンの「遥かなる橋」が原作で、監督を「ガンジー」、「素晴らしき戦争」の名匠リチャード・アッテンボロー、脚本を「明日に向って撃て!」、「大統領の陰謀」のウイリアム・ゴールドマン、撮影監督を「2001年宇宙の旅」、「キャバレー」のジェフリー・アンスワース、音楽を「トム・ジョーンズの華麗な冒険」のジョン・アディスンという超豪華なスタッフの顔ぶれと、尚且つ、当時の大スター、演技派が集結しているため、映画好きにとってはいやが上にも期待が盛り上がります。

かつての「史上最大の作戦」、「パリは燃えているか」や「西部開拓史」等の超オールスターキャストによる映画をも遥かに凌ぐ、まさしく超弩級の大作として製作され、製作者のジョセフ・E・レビンのこの映画に賭けた凄まじい熱意と情熱が感じられます。

この「遠すぎた橋」とは、オランダのアーンエム南方にあるライン河に架かる橋の事で、ノルマンディー上陸作戦から99日後の1944年9月17日に連合国軍により発動された"マーケット・ガーデン作戦"の全貌を描いています。

もともとこの作戦は、イギリス軍のモンゴメリー元帥の発案によるもので、ベルギーから北へ約100kmに渡るオランダの回廊に連なる5つの橋を、パラシュート部隊で空から占拠しようとする"マーケット作戦"と同時に、陸上の機甲部隊がこれら5つの橋を渡って北上する"ガーデン作戦"により、ライン河を渡り、一気にドイツ国内に侵攻し、首都ベルリンの占領を早めて、何とかクリスマスまでに、第二次世界大戦を終結させようとする、イギリス軍を主力に置いた作戦でした。

このイギリス軍発案の作戦は、立案段階で、アメリカ軍のアイゼンハワー将軍が考えていた、連合国軍が歩調を合わせて、幅広く全戦線で進撃しようとする作戦との意見の調整が本来は必要でしたが、ノルマンディー上陸作戦の成功の後、ドイツ軍の混乱にも助けられて、予想以上の快進撃を続けていた連合国軍側の楽観的な戦勝ムードの中、未調整のまま、この"マーケット・ガーデン作戦"が実行に移されました。

歴史的な事実として、この作戦のある意味、強行の裏にはイギリス軍のモンゴメリー元帥とアメリカ軍のパットン将軍の"功名心を争う確執"があったとも言われています。
この二人の将軍の確執は「パットン大戦車軍団」(フランクリン・J・シャフナー監督)の中でも興味深く描かれていましたね。

この作戦には、当初から幾つかの問題があった事も映画はきちんと描いていきます。
特にイギリス情報部の地下組織からのアーンエム付近に、ドイツ軍の有力な戦車部隊が潜んでいるという情報が、軍の上層部へ報告されていたにも関わらず、ブラウニング中将(ダーク・ボガード)に黙殺されます。

また、この作戦は、空と陸が呼応する兵力の迅速な合流と進撃、つまりスピートがこの急襲作戦には不可欠の条件ですが、アーンヘムへの利用が可能な道路は、地形上一つに限られていましたし、作戦の目標のアーンヘムへの空挺部隊の降下地点も、地形上の制約で橋から10数km離れた地点を予定しなければなりませんでした。
また、通信機の利用可能な精度も地形の制約で、困難な状況が予想されていました。

このような、作戦の立案の計画段階での十分な詰めの不足と、天候の不順という悪条件も重なり、作戦開始後、わずか9日間で悲惨な敗北を喫する事になりました。

記録によると、飛行機5,000、グライダー2,500、戦車その他の車両20,000、兵力120,000(うち降下部隊35,000)を投入したこの"マーケット・ガーデン作戦"は目標とする5つの橋の内、4つの橋を占領しましたが、最も重要なアーンエム橋を遂に奪う事が出来ず、結果として17,000人の死傷者を出して、この局地戦に敗北しました。

特に、アーンエムに降下したアーカート少将(ショーン・コネリー)率いるイギリス第1空挺師団とソサボフスキー少将(ジーン・ハックマン)率いるポーランド空挺旅団の総員15,000人の内、生存者はわずか2,427人にすぎなかったそうです。

そして、この悲惨な結果の報告を聞いたイギリス軍のモンゴメリー元帥は、「90パーセント成功した。ただ我々は"遠すぎた橋"へ行っただけだ」と語ったと言われているそうですが、「一握りの将軍たちが戦争ごっこをやろうと言いだして、その結果は、このように多くの兵隊が死んでしまうのだ」と吐き捨てるように言い放つポーランド空挺旅団のソサボフスキー少将の言葉の中に、この映画のリチャード・アッテンボロー監督、脚本のウイリアム・ゴールドマンが訴えたかった"反戦へのメッセージ"が強く浮かび上がってきます。

それにしても「大統領の陰謀」のロバート・レッドフォード、「フレンチ・コネクション」のジーン・ハックマン、「ゴッドファーザー」のジェームズ・カーン、「007シリーズ」のショーン・コネリー、「バリー・リンドン」のライアン・オニール、「ベニスに死す」のダーク・ボガード、「M★A★S★H」のエリオット・グールド、「探偵スルース」のマイケル・ケイン、「ジャッカルの日」のエドワード・フォックス、「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンス、「ハムレット」のローレンス・オリヴィエ、「ニュールンベルグ裁判」のマクシミリアン・シェル、「ワイルドギース」のハーディ・クリューガー、「叫びとささやき」のリヴ・ウルマンという14人の当時の大スター、演技派のひとりひとりに見せ場を設けないといけないという制約の中で、リチャード・アッテンボロー監督は、何とかうまくまとめていたと思います。

我々映画ファンからすると、奇跡的なこのような大スターの競演というのは映画のテーマとは別にワクワク、ドキドキするような映画的興奮を味わえ、映画が好きになって良かったという歓びと感動を実感できると思います。

この映画を観終わって、組織のトップの在り方などを考えさせられたりした点は良かったのですが、地理上の位置関係や動きがつかみづらかった点が、少し残念であったと思います。

最後にこの映画に出演し、陸からの"ガーデン作戦"を指揮したイギリス軍のホロックス中将を独特の粘着性のある演技で存在感を示したエドワード・フォックスが1977年第12回全米批評家協会の最優秀助演男優賞、及び同年の第31回英国アカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞しています。

また、撮影監督のジェフリー・アンスワースが、第31回英国アカデミー賞の最優秀撮影賞、作曲のジョン・アディスンが同賞の最優秀作曲賞、その他、最優秀音響賞も受賞しています。
返信する
階級社会では (館長)
2023-06-23 07:20:53
軍隊は極端な階級社会だと思いますので、洋の東西を問わず上官の言うことは絶対なのでしょう。
上官がくだした決定に部下が異論を唱えにくいのは日本軍だって同じで、あの日本海海戦におけるバルチック艦隊の進路報告でも巡洋艦3隻の内で最上位の艦長による誤った報告が採用されたとのことです。
その為にやむを得ず起きた東郷ターンが美化されて伝えられています。
返信する

コメントを投稿