おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ミクロの決死圏

2020-04-25 11:01:06 | 映画
終盤になってきました。
いよいよ「み」です。


「ミクロの決死圏」 1966年 アメリカ


監督 リチャード・フライシャー
出演 スティーヴン・ボイド
   ラクエル・ウェルチ
   アーサー・ケネディ
   エドモンド・オブライエン
   ドナルド・プレザンス
   アーサー・オコンネル
   ウィリアム・レッドフィールド
   ジェームズ・ブローリン

ストーリー
物体を細菌大に縮小し、長時間体内に浮遊しうる研究を完成した、チェコの科学者ヤン・ベネス博士がアメリカに亡命してきた。
しかしアメリカへ着くや敵側のスパイに狙われ、車に乗っているところを襲われ、博士は脳出血を起こし倒れた。
現在のアメリカの医学は博士の研究の初歩の段階で、体中に潜りこむことは1時間しかできなかったので、長時間潜行を知るためには1時間だけでも博士の脳内に潜り博士を助けねばならない。
医学史空前の試みがここに挙行された。
潜行艇に医師と科学者を乗せ、ミクロ大に縮小し、それを博士の頚動脈に注射することにより、博士の脳内出血部に到達させ、レーザー光線で治療する、というものであった。
潜行艇プロテウス号は、脳外科医デュバル、その助手コーラ、循環器の専門医マイケルス、海軍大佐オーウェンス、それに特別情報部員グラントの5人を乗せて博士の体内に潜入していった。
無論外部とはリモート・コントロールで絶えず緊密な連絡をとることは言うまでもない。
しかし、実際に潜行艇が血管内を潜行してゆくと思いがけないことが突発した。
血管の内皮壁に微細な割れ目があり、とかく艇の進行が遅れがちだし、心臓の鼓動は進行を妨げた。
彼らは60秒間博士の心臓を止めて、やっとのことで通過、さらにリンパ節内に入っていった。
しかしここでも海草のような網状ファイバーに絡まれ艇は壊滅寸前となった。


寸評
コンピュータ処理による映像技術が進歩した今から見ると随分と陳腐に感じるところもあるが、この作品を初めて見た時の驚きと感動を昨日のことのように思い出す。
「ミクロの決死圏」は僕が見た外国映画における最初のSF作品だったのだ。
兎に角、企画と言うか発想と言うべきか、誰もが見たことのない人体内部の映像と、そこで起きるトラブルが手に汗握るものとなっており最初から最後まで楽しめる。
登場人物が少ないこともあって、スパイの見当が早々と付いてしまいサスペンスの盛り上がりには欠けるが、それを割り引いても冒険映画としての面白さは失われることはない。

縮小化される手順は子供だまし的なところもあるが、体内に注入され動脈に入る時点から驚異の映像が続く。
動脈を辿っていく予定が静脈に入ってしまうところから難関に立ち向かう姿が描かれる。
肝臓や腎臓、すい臓など臓器はどれも大切だが、その臓器の持つ特徴を想像できる馴染み深いのが胃、心臓、肺だろう。
潜航艇はそれらの臓器を通るが、さすがに胃を通れば胃液で潜航艇が溶かされてしまうのでその場面はない。
最初の難関は心臓で、心臓の鼓動に立ち向かう姿と解決方法が見せるものとなっている。
心臓が鼓動する波動によって乗組員が揺れる描写のアイデアに感心する。

潜航艇にトラブルが発生し艇内の酸素が足りなくなって、それを肺から取り入れる発想も面白い。
レーザー光線銃が壊れ、無線機から部品を取り出したことで外部との連絡が取れなくなる描き方も無理がないものだが、面白いのは細かい部品による修理を外科医が手術よろしく行う描写だ。
この様なちょっとしたアイデアが詰まっていることも、娯楽作として成功に導いている。
抗体が異物と思ってコーラを攻撃する場面も楽しめる。
コーラを演じるのが肉体派女優として著名だったラクエル・ウェルチで、彼女のコスチュームが男性観客へのサービスとなっている。
「20世紀最高のグラマー」と称されて名前が随分と先行したのがラクエル・ウェルチで、僕が見た彼女の出演作としてはこの「ミクロの決死圏」のみである。
いやもう一本、「ショーシャンクの空に」の中でポスターとして登場していたな。

潜航艇は耳を通ることになるが、耳となれば音が重要な要素となることは明白で、起きる事態も予想されるものであり、観客の期待を裏切らない描き方で楽しませる。
最後は彼らが一体どこから脱出するのかということに興味が行くのだが、その方法はアイデアの勝利を締めくくるものとなっており満足感を与えるものだ。
白血球が潜航艇を襲うが、白血球は潜航艇のような物質も消滅させてしまうような力を持っているのだろうか。
アナログ的な体内セットだが、脳の中をパルス信号が飛び回っているなど、科学に裏打ちされたシーンが多いこともこの作品を支えている要因だが、白血球が潜航艇を飲み込むシーンだけは疑問を持った。
しかし、冒険映画としてもSF作品としても「ミクロの決死圏」は、僕の映画遍歴の中で記憶に残る1本であることに変わりはない。


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2 コメント

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「ミクロの決死圏」について (風早真希)
2023-06-19 10:11:48
東西冷戦時代に、その両陣営で研究を競う、物質ミクロ化技術の秘密を握るチェコの科学者が、鉄のカーテンから亡命するが、途中で撃たれ、脳に重傷を負ってしまう。

そこで、西側陣営の軍部は、治療のために情報部員や医師たちを、原子力潜水艇プロテウスに乗り込ませ、この潜航艇ごとミクロ化し、血管注射で科学者の体内へ送り込むことに-------。

この映画「ミクロの決死圏」の監督は、1950年代から1980年代までの長きに渡り、ディズニー製作の傑作SF「海底二万哩」、実験的な映像表現を試みた「絞殺魔」、戦争大作「トラ・トラ・トラ!」のアメリカ側監督、南部の人種差別を描いた問題作「マンディンゴ」など多種多様な作品を発表した、稀代の職人監督・リチャード・フライシャー。

この映画のミクロ化した人間が、人体に潜入し治療を行なうというアイディアは、我が日本の手塚治虫の漫画作品「吸血魔団」をベースにしていると思われますが、タイム・リミットを生かしたサスペンスやスパイとの攻防戦など、手に汗握る展開も見事ですが、何より素晴らしいのは、L・B・アボットによる特殊効果ですね。

「眼下の敵」での海上砲撃戦から、「タワーリング・インフェルノ」の高層ビル火災まで、ミニチュア模型や光学合成を駆使したL・B・アボットの特殊撮影は、現在の水準から見れば、ローテクニックではあるものの、その豊かなイマジネーションは普遍性があり、実に見事な出来栄えだと思います。

とにかく、一時間たつと縮小効果が薄れ、元のサイズに戻ってしまうという、緊迫したスリリングな状況の中、心臓を通過したりとか、異物排除のために白血球が襲い掛かり、心拍の衝撃で潜水艇が大揺れしたりする、体内のスペクタクル・シークエンスは、ほとんど前衛的とも思える程の強烈な美術イメージに貫かれていて、見事としか言いようがありません。

そして、クルーの一人が敵のスパイで、妨害工作をするなどのエピソードも盛り込まれ、観ていて全く飽きさせませんね。

美術監督のデール・ヘネシーによる白血球や血管、巨大な模型で作られた心臓などのセットも実によく出来ていて、非常に印象的でした。

そして、何と言ってもラクウェル・ウェルチの身体にぴったりあったウェット・スーツ姿は、私を含めた男性映画ファンを大いに喜ばせてくれたと思います。

なお、この映画は1966年度の第39回アカデミー賞の美術監督賞・装置賞(カラー)と特殊視覚効果賞を受賞していますね。
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特撮に驚いた (館長)
2023-06-19 11:44:32
私がこの映画を見たのは高校時代でした。
今のようなCG処理はなかった時代ですから、人体内部の映像に感動したことを思い出します。
衝撃を受けた映画の1本であることは確かです。
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