おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

死刑にいたる病

2023-11-15 07:14:21 | 映画
「死刑にいたる病」 2022年 日本


監督 白石和彌
出演 阿部サダヲ 岡田健史 岩田剛典 宮崎優 鈴木卓爾
   佐藤玲 赤ペン瀧川 大下ヒロト 吉澤健 音尾琢真
   岩井志麻子 コージ・トクダ 中山美穂

ストーリー
大学生の筧井雅也(岡田健史)は進学校に入学したものの3流大学にしか受からず、父親(鈴木卓爾)からは認められていない。
母親の衿子(中山美穂)もまた父親から家政婦扱いされ、同じく自由などなかった。
祖母の葬儀のために久々に実家に帰った雅也は実家に届けられていた自分宛の手紙を見つけた。
手紙の主は榛村大和(阿部サダヲ)、中学時代に雅也がよく通っていたベーカリーの店主だったが、その正体は24人もの人間を殺害し、爪を剥がしてコレクションしていたシリアルキラーだった。
雅也は刑務所に収監されている榛村の面会に行くと、すでに死刑が決まっている榛村は、立件されたほとんどの事件の関与を認めているものの、最後の事件だけは自分がやってないのだと告白し、真犯人を見つけて欲しいと願い出た。
その後、榛村の担当弁護士の佐村(赤ペン瀧川)から事件に関する調書を見せてもらった雅也は、16、17歳の少年少女をターゲットにして最終的に殺害に至った榛村の共通した手口に対し、最後の事件の被害者である24歳の根津かおる(佐藤玲)だけは、ターゲットにする年齢も殺害方法もこれまでとは違ったものになっていることを知った。
根津かおるの近辺を調べ始めた雅也は、彼女が極度の潔癖症でストーカー被害に悩まされていた事を知る。
そして同時に、祖母の遺留品を調べていると母親の玲子が若い頃に榛村と繋がっていることも知った。
そこで雅也は、過去の二人を知る滝内(音尾琢真)から話を聞くことにした。
実の親から虐待を受け、育ての親に育てられた榛村はボランティアで玲子と出会っていた。
幼い頃から人の心を掴むことに長けていた榛村。
人には心を開かなかった玲子は榛村には心を開いていたが、やがて玲子は妊娠と共に姿を消していたのだ。
まさか自分の父親は榛村なのではということが雅也の脳裏に浮かんだ。


寸評
阿部サダヲありきの映画で、榛村大和という異常者の人物像が徐々に浮かび上がってくる展開を阿部サダヲが不気味な表情で演じている。
やがて描かれる榛村大和の残虐な殺人行為に目を覆いたくなるが、冒頭の祖母の葬儀場面から変な雰囲気で、雅也が父親と上手くいっていないのは分かるが、母親の衿子が追加するビールの本数を決められない姿が作品が示す異様さの手始めを感じさせ、導入部としては手際が良い。
映画は拘置所の面会室における雅也との直接対話による榛村の柔らかさと、事件にまつわる回想シーンにおける猟奇性の対比を際立たせていく。
榛村大和は幼い頃から人の心を掴むという能力が特別に長けていた男だ。
ベーカリーにやってくるお客や、スーパーのレジ担当アルバイト、公園で遊ぶ少年たちなどに、人を安心させる笑顔と手段で取り入っていく。
やがて榛村大和に関わった人たちは、蜘蛛の巣にかかった蝶のように彼の餌食となっていく。
榛村大和の特殊能力は、言い換えれば人を洗脳する能力である。
被害者は霊感商法で見られる被害者と何ら変わらない。
人間社会において人と交わらないで過ごすことは出来ない。
榛村大和の手口を見ていると、社会生活の中で打ち解け合ったり信頼関係を築いたりしていることも、もしかしたら洗脳の一種なのかと思ってしまいゾッとするものがある。

雅也は榛村大和の担当弁護士から事件に関する調書を見せてもらうのだが、その際に彼は法律事務所のアルバイトと言う身分を与えられる。
そんなにも簡単に法律事務所のアルバイトにありつけるものかと思うし、事務所職員の名刺を勝手に作っての活動にあの程度の叱責で済むのかなどリアリティを感じさせないところもあるが、白石和彌としてはリアリティよりエンタテインメント性を重視して撮っていると思われる。
雅也がスマホで盗撮した被害者の写真を部屋の壁いっぱいに貼っている理由もよく分からず、単に視覚的効果を狙ったものだったのだろう。
その割には後半になって明らかになってくる驚くべき事実の判明の仕方が少々盛り上がりに欠けていたように思われる。
特に雅也の出生に係わる場面はもっと盛り上げることが出来たと言う気がするし、根津かおるの殺害現場で涙を流していた女性が判明する場面も同様で、サスペンス性よりもミステリー性を重視する演出を感じる。
面白いのは榛村大和の洗脳が今も生き続けていることで、拘置所の看守も彼の手中にあるし、母親の衿子だって洗脳が解けていないのかもしれない。
他にも洗脳されている人物が示され、もしかすると雅也自身も榛村大和に操られていたのかもしれないと思わせるラストは衝撃である。
それならいっそ、弁護士の佐村も榛村大和の手中にあったとしたほうが良かったのでは・・・。
検事も裁判官もそうなっていたとしたら、これはもう喜劇の世界になってしまうから、それはないな。
白石和彌が死刑囚を描いた同類の映画としては、僕は「凶悪」の方が良かったように思う。


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