おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

空中庭園

2019-04-24 08:48:36 | 映画
「空中庭園」 2005年 日本


監督 豊田利晃
出演 小泉今日子 板尾創路 鈴木杏 広田雅裕
   今宿麻美 勝地涼 國村隼 瑛太 ソニン
   永作博美 大楠道代

ストーリー
“ダンチ”と呼ばれる東京郊外のニュータウン。
そこに暮らす京橋家では、“家族の間で隠し事をつくらない”というのが一家のルール。
「何事もつつみ隠さず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合う」それが、母親らしいことを何ひとつしてくれなかったさと子への反発から、いつも笑顔で幸せな家庭であり続けようと絵里子が決めたのだ。
だが、絵里子の意に反して、家族はそれぞれに秘密を持っていた。
夫の貴史は麻子とミーナと言うふたりの愛人の間を行き来している。
娘のマナは不登校を続け、ショッピングセンターや見知らぬ男とラブホテルに行き、弟のコウも学校をサボりがちである。
妻の絵里子はベランダのガーデニングにいそしみながら、母との長年の因縁に悩んでいた。
建築物に興味を持つ引きこもりがちな息子のコウは父の愛人と知らずにミーナを家庭教師に迎えてしまう。
そんなある日、絵里子はさと子とミーナの合同誕生パーティを開く。
ところが、酔っ払ったミーナのお陰で家族の秘密が次々に露呈、絵里子の築き上げてきた家庭はもろくも崩れ去った。
しかし、自身の誕生日。
さと子からのバースデイ・コールによってわだかまりの解けた絵里子は再生することが叶い、プレゼントを抱え帰宅して来た家族を温かく迎えるのであった。


寸評
この作品が公開される直前に豊田利晃監督が覚せい剤所持で逮捕されたのだが、まさか撮影中に覚せい剤を使用していたとも思われない。
それでも、もしかしたらと思わせる独特のカメラワークとシュールな映像が随所で展開される。
時々斜めになる画面、広角レンズや望遠レンズを使った画面、植物の葉にあいた穴から空を見上げグーンとズームアウトしていくカメラワークなどである。
高層団地の上の方に住んでいる京橋家の主婦絵里子(小泉今日子)は、広々としたベランダで色々な植物を育てていてまるでガーデンの様だ。
各階が階段状になっていて、それはまるで世界の七不思議のひとつバビロンの空中庭園の一角の様である。
しかしそのガーデンは大地に根付いたものではなく疑似ガーデンである。
京橋家も家族の中では内緒ごとは作らないと言いながらもガーデン同様の疑似家族である。
意思疎通が十分なようでありながら、すぐさまそれが演じられたものだということがわかる。
夫(板尾創路)は麻子(永作博美)やミーナ(ソニン)と浮気している。
長女のマナ(鈴木杏)と長男のコウ(広田雅裕)は学校に行った振りをしてブラブラしている。
絵里子はいつもニコニコしているが、その笑顔の裏で鋭い顔を見せる。
母親(大楠道代)との確執から、絵里子は母と違ったいつも笑顔の幸せな家庭を夢見てそれを演出している。
しかし隠し事のない家庭なんて無理な話で、ひとはそれぞれ秘密を持っているし、墓場まで持っていかねばならないことだってあったりするのだ。
家族にだって明かせない秘め事の一つや二つは持っているものだと思う。

前半は突拍子過ぎてリアル感に欠けていたのだが、夫の不倫相手が家庭教師として出現したのをきっかけに映画は俄然面白くなってくる。
隠し事をつくらないをルールにしていた家族のほころびが少しずつ大きくなっていくのだ。
特に幸せな家庭を演出していた絵里子が壊れていく姿の描き方は圧巻である。
ここからの小泉今日子はスゴクいい。
静かでありながら鬼気迫るものを感じさせ「死ね!」のセリフが強烈だ。
バイト仲間を売る行為もスゴイが、その女と喫茶店で別れた後のけだるい表情などはゾクッとさせられる。
小泉今日子に輪をかけたのが母親役の大楠道代で相変わらず存在感にあふれた演技を見せる。
板尾創路も頑張っていたが、それ以上に小泉今日子と大楠道代の掛け合いは見所だ。

真っ赤な雨に打たれて叫ぶクライマックスシーンには背筋をゾクゾクさせられるし、息を飲むほど迫力あるそのシーンを経て、さりげなく家族の再生を示唆する結末にも好感が持てた。
母親も含めて疑似家族の様であったが、家族の誕生日は覚えているのに自分の誕生日を忘れてしまっている絵里子への家族の心使いが、この家族はこの家族のやり方で結びついているのだと思わせた。
見終ると、クスリでもやってなきゃこんな映像撮れないないよなと思ってしまう作品で、豊田利晃にとっても渾身の一作と言えるのではないか。
映像でも迫ってくるこんな映画は僕好みである。



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