おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

映画女優

2023-09-01 06:49:00 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/3/1は「会社物語 MEMORIES OF YOU」で、以下「怪談」「海炭市叙景」「顔」「ガキ帝国」「鍵泥棒のメソッド」「隠し砦の三悪人」「影武者」「風と共に去りぬ」「家族」と続きました。

「映画女優」 1987年 日本


監督 市川崑
出演 吉永小百合 森光子 横山道代 常田富士男 石坂浩二
   渡辺徹 中井貴一 菅原文太 平田満 岸田今日子
   神保共子 井川比佐志 佐藤正文 戸井田稔 田中隆三
   吉宮君子 沢口靖子 上原謙 高田浩吉 小木茂光

ストーリー
大正14年。女優を志す少女・田中絹代は蒲田撮影所の大部屋女優として採用された。
新人の監督清光宏の強い推薦のおかげだった。
上京に当っては母のヤエ、姉の玉代、兄の晴次と洋三、それに伯父の源次郎までが関西の生活を捨てて同行することになった。
大部屋の給料が10円~15円だった当時、破格の50円をもらい、清光作品ではいつも良い役がつく絹代に、同僚の嫉妬が集まったが、小さな身体にファイトをみなぎらせて撮影所通いを続けた。
絹代の素質を見抜いた五生平之助監督は、撮影所長の城都を説得して「恥しい夢」の主役に抜擢した。
自分が発見した新人女優をライバルにとられた清光は、「恥しい夢」が完成した後、強引に絹代に迫った。
何事にも熱中するタイプの絹代は、清光との愛にも激しく燃えた。
城都の提案で2年間の試験結婚という形で同棲生活を始めたものの、女優としての仕事が忙しい絹代は炊事も掃除も満足にできない花嫁だった。
ある日、清光が暴力を振るい、怒った絹代が座敷でオシッコをするという抵抗の仕方で二人の生活は終った。
それ以後の絹代の活躍は、第一回トーキー作品「マダムと女房」の主演と成功、「伊豆の踊子」の主演、そして「愛染かつら」の大ヒットと目ざましかったが、家庭的には恵まれなかった。
姉の駆け落ち、撮影所をやめた兄たちの自堕落な生活、母の死が絹代を打ちのめしたが、付人兼用心棒として雇った仲摩仙吉に励まされ、何とか切り抜けることができた。
それから歳月が流れ、昭和26年秋、溝内健二から出演交渉を受けた絹代は京都を訪れた。
戦後の新しい時代に即応できず低迷していた溝内は、新作の「西鶴一代女」に起死回生を賭け、そのパートナーに絹代を選んだのだ。
お互いに好意を持ちながら、仕事となると仇敵のように激しく火花を散らす2人・・・。

寸評
日本映画史に燦然と輝く大女優田中絹代の一代記である。
吉永小百合が田名絹代になり切れているかどうかは別にして、実録物に関して僕はいつも思うのだが、どうして関係者の名前を偽名にする必要が有るのだろう。
ちょっと詳しい人なら、それが誰であるかは想像がつくものなのにである。
本作でも聞きなれた名前の人物が次々登場する。
絹代を見出した清光宏(渡辺徹)は清水宏であることは明白だ。
その他にも、五生平之肋(中井貴一)は五所平之助であり、城都四郎(石坂浩二)は城戸四郎、溝内健二(菅原文太)は溝口健二、依戸義賢(佐古雅誉)は依田義賢であることは間違いない。
上原謙は本人役で登場し、小津安二郎や栗島すみ子、林長二郎などの名前はそのままだったのに。
ロマンス相手の野球選手とは水原茂だったが、本当にロマンスがあったかどうかは疑わしいのではないか。

田中絹代の一代記で、彼女のデビュー時の出来事なども知れるが、映画史の一面を垣間見ることが出来るのも映画ファンとしては楽しめる作品だ。
スチール写真での名画紹介もあるし、「人情紙風船」などの実写の一部挿入もある。
山中貞雄への鎮魂的なナレーションもあり、市川崑の山中貞雄への尊敬の気持ちがくみ取れる。
洋画も含めて映画がこのようにして発展してきたのだなあという社会勉強が出来た。
また当時の撮影所風景が再現され、その様子を興味深く見ることが出来るのも嬉しい。

大スターの田中絹代に家族が群がるのは仕方のないことなのだろう。
これまた大スターの高峰秀子もそれに苦労したことを彼女自身のエッセーで語っていたことを思い出した。
田中絹代は高峰秀子と違って一家が一応の秩序を保っていた事がわかる。
母・ヤエの森光子が映画の中でもこの一家を支えていた。
面白いのは仲摩仙吉の平田満だ。
本当に彼があるいは彼と思われる人物が存在していたのかは知らないが、何かと田中の面倒を見ながら田中の本質を見抜きズバズバと意見を言う男を面白おかしく演じていた。
「西鶴一代女」の撮影風景では、吉永小百合が田中絹代と同じ演技をすることになるが、やはり本物は本物だけのことがあると思わせる。

僕は若いころの田中絹代を知らない。
晩年の田中絹代を見ることが多く、その時には脇役が多かったが圧倒的な演技力で存在感を示していた。
田中絹代の人となりは分かったけれど、彼女に起こった出来事を通じての人生模様の深層を描き切るまでには至っていない。
その意味では吉永小百合が田中絹代を演じきれたとは言い難いのではないか。
渡辺徹が清水宏がモデルと思われる清光宏をやったせいもあるが、彼との試験的結婚生活の破たん状況も内容の割にはあっさりとしたもので、ああそうだったのねという感じで終わっていた。
吉永小百合99本目の作品にして、彼女の代表作は未だに「キューポラのある街」だと思わせる。



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