おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

火垂るの墓

2020-04-02 13:42:44 | 映画
「火垂るの墓」 1988年 日本


監督   高畑勲
声の出演 辰己努 白石綾乃 志乃原良子
     山口朱美 酒井雅代

ストーリー
終戦近い神戸は連日、B29の空襲に見舞われていた。
幼い兄妹・清太と節子は混乱のさなか、母と別れ別れになった。
清太が非常時の集合場所である国民学校へ駆けつけると、母はすでに危篤状態で間もなく息絶えた。
家を焼け出された兄妹は遠縁に当たる未亡人宅に身を寄せた。
うまくいっていた共同生活も、生活が苦しくなると未亡人は不満をぶつけるようになった。
清太は息苦しい毎日の生活が嫌になり、ある日節子を連れて未亡人の家を出た。
そして、二人はわずかの家財道具をリヤカーに積み、川辺の横穴豪へ住みついた。
兄妹は水入らずで、貧しくとも楽しい生活を送ることになった。
しかし、楽しい生活も束の間、やがて食糧も尽き、清太は畑泥棒までやるようになった。
ある晩、清太は畑に忍び込んだところを見つかり、警察につき出されてしまった。
すぐに釈放されたものの、幼い節子の体は栄養失調のため日に日に弱っていった。
ある日、川辺でぐったりしていた節子を清太は医者に診せたが、「薬では治らない。滋養をつけなさい」と言われただけだった。
昭和20年の夏、日本はようやく終戦を迎えたが、清太らの父が生還する望みは薄かった。
清太は節子におかゆとスイカを食べさせるが、もはや力を失くしていた節子は静かに息をひき取った。
清太は一人になったが、彼もまた駅で浮浪者とともにやがてくる死を待つだけだった。


寸評
「火垂るの墓」は焼け跡闇市派と呼ばれた野坂昭如氏が「アメリカひじき」と共に直木賞を受賞した作品で、僕は2作品を収録した単行本を学生時代に読んだ。
読みながら泣いた数少ない作品の一つであるが、アニメ化された本作は見事に映像化している。
親を亡くした14歳の兄と4歳の妹が終戦前後の混乱の中を必死で生き抜こうとするが、二人とも栄養失調で悲劇的な死を迎えていくというアニメとしては珍しい非常に暗い話である。
映画の冒頭から結末は予告されている。
独りぼっちになった兄の清太は三宮駅で餓死してしまう。
清掃員が所持品から見つけたのはドロップ缶に入った少量の骨のかけらで、清掃員がその缶を近くの野原に投げ捨てると、空に向かった清太の魂は4歳の妹、節子の魂と再開し、二人がたどった短い一生が語られていく。

第2次世界大戦末期に激しさを増した米軍による空襲は、主人公たちが住む神戸を襲い、病弱な母は焼夷弾によるやけどで死んでしまう。
清太は母の死を節子に隠し親戚の家に身を寄せるが、やがて冷たい仕打ちを受けるようになる。
それでもけなげに生きる二人の兄妹愛が心にしみる。
特に節子の可愛い姿と声を担当した白石綾乃ちゃんの話し方がいじらしい。
この時、白石綾乃ちゃんは6歳に満たない少女だったと言うから、この表現力には驚くばかりである。
映画の成功は彼女の声の力が大きい。
親戚の家での争いが絶えなくなってきたので清太は、節子を連れ家を出て防空壕の中で暮らし始めるのだが、最初の内はままごと遊びの様で楽かったのに、やがてひもじい生活が始まる。
食料に困った清太は畑から野菜を盗んだり、米軍による空襲で逃げ出した家から火事場泥棒をして必死に飢えをしのぐが、このような生活がヤクザ組織を誕生させたのかもしれない。
しかし彼らは非行に走る前に息切れてしまう。
なんとも救いようのない作品である。

戦争で命を落としたのは兵士ばかりではない。
市井の人々も数多く亡くなった。
その結果として彼らのような戦争孤児が大量に発生した。
戦争は清太や節子のような子供たちに苦難を与え、幼い命を奪っていくのだ。
僕は戦争がもたらす悲惨さを実体験として持ち合わせていないが、この映画を見ると可哀そうんだなあという感情以上のものが湧いてきて涙が流れてしようがない。
ものすごく仲の良かった兄と妹なのに寄り添うように死んでいかねばならなかった悲惨さはアニメの世界だけではないのだと思わせるに十分な高畑勲の演出である。
清太と節子の亡骸が戦後発展した神戸の街を見つめて映画は終わるが、彼らのような子供を生み出しながら日本は発展し、僕たちは今の平和を享受している。
その事への思いを忘れてはならないのだ。


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