おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

馬鹿まるだし

2021-09-01 06:45:28 | 映画
「馬鹿まるだし」 1964年 日本


監督 山田洋次
出演 ハナ肇 桑野みゆき 清水まゆみ
   水科慶子 藤山寛美 小沢栄太郎
   犬塚弘 長門勇 三井弘次 渥美清

ストーリー
シベリヤ帰りの安五郎(ハナ肇)は、外地に抑留される息子がいる和尚(花澤徳衛)の浄念寺にころがりこんだ。
若くて美しい住職の妻の夏子(桑野みゆき)に安五郎は秘かに恋慕していた。
堂々たる風貌と腕っぷしの強さで安五郎は、早くも町の人気者となった。
そのきっかけは、町の劇場に出演中の怪力スーパーマンを負かした事件が、町中に広まったからだ。
以来、安五郎には八郎(犬塚弘)という子分も出来、又一軒の家を構えて町のボスとなった。
やがてインフレの波がこの瀬戸内海の小さな町にも押しよせて来た。
そして町の工場にも労働争議が起きた。
おだてられた安五郎は、赤木会長(小沢栄太郎)に面談し、工員の要求を貫撤させた。
ただ夏子に一言ほめてもらいたい、それが安五郎の行動の全ての動機なのだ。
英雄となった安五郎の日々も、町の勢力を革新派が握ったことから急変した。
何となく冷くなった町の人達の眼、そして夏子との間が噂となり浄念寺への出入りは禁止となって、痛手は大きかった。
ある日ダイナマイトを持った脱獄囚の三人組が辰巳屋の静子(清水まゆみ)を誘拐して裏山に逃げ込んだ。
この時人の口にのぼったのが、大力をもつ安五郎だ。
人の好い安五郎は名誉挽回と裏山に行って静子を救ったのだが、その際足元でダイナマイトが爆発して両眼を失ってしまう。
それから二年後、唯一筋に愛しぬいた夏子の、再婚の花嫁姿を見守る、杖にすがった盲目の老人。
あの気風のいい、安五郎の変り果てた姿が白木蓮の匂う浄念寺にあった。
夏子の涙にぬれた眼が安五郎に優しくそそがれているのも知らぬまま……。


寸評
クレイジー・キャッツが総出演しているが、東宝の「無責任シリーズ」とは一線を画している。
作品自体は完全に「無法松の一生」へのオマージュとなっている。
無教養だが腕っぷしが強く人の良いしがない男が未亡人に秘かな思いを寄せるのは同じ設定となっている。
片や人力車夫の富島松五郎がお世話になった陸軍大尉吉岡小太郎の未亡人吉岡良子に思いを寄せるのに対し、こちらは風来坊の安五郎が若くて美しい戦地で生死不明となっている住職の妻の夏子に思いを寄せる。
「無法松の一生」の松五郎は本当に腕っぷしが強いが、こちらは喜劇なだけに安五郎は運が強くて強い男と勘違いされてしまっているという描き方である。
オマージュとして劇中の旅役者の一座が演じる演目も「無法松の一生」となっている。
そして愛を打ち明ける時のセリフとして安五郎に「あっしは汚れている」と語らせている。
松五郎が吉岡夫人一家に何かと世話を焼くのに対し、こちらの安五郎は寺男の時は何かと便利使いされて役に立っているが、寺を出てからは皆からおだてられて利用されるだけで、夏子にいつも注意されるようになっている。
マドンナの桑野みゆきは、戦前に当時のベスト・ドレッサー女優と称された桑野通子の娘で、僕は彼女の笑顔が好きで結構ご贔屓にしていた女優さんだったのだが1967年に結婚と同時に引退してしまった。

安五郎は和尚の奥さんが言うように「ちょっと頭の足りんようなとこはあるけど悪い人ではないらしい」という男で、おだてられるとブタも木に登るようなところがある。
物語に起承転結はなく、安五郎の性格を生かしたちょっとしたエピソードが積み重ねられていく。
それが不自然にならないように大人になった清十郎(植木等)の声で語られる。
喜劇なので喜劇役者の渥美清や藤山寛美が特別出演しているが、やはりエピソードの一つに過ぎない。

安五郎が労働争議の場面で言うように、自分が世話になったと認識している村の衆の為なら身体を張って役に立とうという意識があり、時々その気持ちを悪用されることがあるのだ。
安五郎にはそれ以外に、村人の一人でもあるご新造さんにもほめられるに違いないと勝手な思い込みがあり、そしてその期待は一瞬にして裏切られる。
積み重ねのエピソードは常にそのパターンの繰り返しである。
作品として決定的になるのは最後の裏山での騒動の場面だ。
村のみんなに煽てられて安五郎は心ならずも決死隊的な殴り込みに向かう。
安五郎が夏子に思いを寄せていることを知っている村人が、夏子が助けに行くようにと言っていると言い含められた結果の行動である。
八郎によってそれが嘘だったと知るが、もう後に引けなくなっている。
あこがれのご新造さん夏子に「馬鹿ね」と、低くつぶやくように言われると、その瞬間に呆然とした安五郎のアップが示され、皆に利用されるだけの安五郎の馬鹿さ加減が強調されるのである。

安五郎のキャラクターは車寅次郎に引き継がれて結実するのだが、テレビ版の「男はつらいよ」では寅さんがマムシに咬まれてあっけなく死んでしまう。
ここでも安五郎はあっけなく死んでしまった事になっている。


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