おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~

2023-08-16 07:31:52 | 映画
「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」 2009年 日本     

                                
監督 根岸吉太郎                                          
出演 松たか子    浅野忠信 室井滋 伊武雅刀 広末涼子 妻夫木聡
      堤真一 光石研 山本未來 鈴木卓爾 小林麻子 信太昌之

ストーリー
戦後間もない混乱期の東京。
小説家の大谷は才能に恵まれながらも、私生活では酒を飲み歩き、借金を重ね、おまけに浮気を繰り返す破滅的な生活を送っている。
放蕩を尽くしては健気な妻・佐知を困らせてばかりの日々だった。
ある日、行きつけの飲み屋“椿屋”から大金を奪って逃げ出してしまった大谷。
あやうく警察沙汰になりかけるが、佐知が働いて借金を返すことでどうにか収まる。
こうして椿屋で働くようになった佐知だったが、その評判はすぐに広まり、あっという間にお店の人気者となり椿屋は佐知目当ての客で賑わい出す。
そんな佐知の前に、彼女を慕う常連客の真面目な青年・岡田や、昔佐知が想いを寄せていた弁護士・辻が現われ好意を寄せられるのだった。
いっぽう大谷は、見違えるように美しくなっていく佐知に嫉妬を募らせる。
そして大谷は、書くことそして生きることに苦悩し、ついに愛人の秋子と心中未遂を起こしてしまう。
それを知った佐知は…。


寸評
芥川龍之介、坂口安吾、太宰治。
僕の中では彼らは破滅的で堕落した生活を送る作家のイメージがあり、そんな彼等を愛し愛読した時期もあった。
近年はそれらの作家の作品をとんと読まなくなったが、一生の内では彼等の作品を読む時期というものがあるような気もする。
太宰の「ヴィヨンの妻」は短編ではあるが、男は太宰その人ではないかと思わせるので、興味本位で一気に読み終えたような記憶がかすかに残っている。

主人公の佐知は明るいバイタリティのあるいい女である。
男はどこに魅力があるのかよく分からない。
わからないけれど、やたらと女が近寄ってくる男であるようだ。
いいパトロンを振り切っても大谷に入れ込んだ秋子や、借金の肩代わりをするクラブのママらしき女なども登場する。
そんな大谷だが、この映画では決して主人公ではない。
もっとも原作でも「私」という一人称で描かれているのは女のほうなので、この作品自体が女の強さを描いた作品なのだろう。
佐知は破滅的な身勝手な夫に泣かされるが弱い妻ではない。
佐知は強くてくましい女性で、夫が金を盗んだ小料理屋に押しかけて、相手のことなどお構いなしに無理やり働かせてもらうようなパワーの持ち主である。
さらに、その店で人気者となってしまい、お店に繁盛をもたらす。
その後も、身勝手な夫に悩まされるものの、けっしてとイジケたりはしない。
元カレや、彼女に思いを寄せる若者も現れるが、けっしてそちらになびくことはない。
そんな女を松たか子が好演している。
彼女の持つ気品と振る舞いがピタリとはまっていてキャスティングの妙だと思った次第である。

広末涼子が演じた秋子が自殺未遂をしながら助かり、警察で佐知とすれ違いざまに見せた薄笑いは、大谷を奪い取った勝者の自己満足の表情に見え、女は恐ろしいと思わせた。
広末涼子はなかなかいい。

「私たちは、生きてさえすればいいのよ」は原作の最後でも言った言葉だが、ポジティブで生命力のある、おおらかで強い女性を凝縮していたと思う。
脇役陣の室井滋や伊武雅刀などの存在がこの映画を支えていた。

そういえば、根岸吉太郎は前作の「サイドカーに犬」でも冴えない男に、カッコいい竹内裕子を絡ませていたなあ。
僕は映画としてはその「サイドカーに犬」のほうが好きだな。


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